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えーっと、今回は生命の起源について、ちょっとお話してみようかな、と思います。
1953年、シカゴ大学の大学院生だったスタンリー・ミラーって人がいたんだけど、その人がね、フラスコを二つ用意したんだよね。一つにはちょっと水を入れといて、これはね、昔の地球の海をイメージしてるんだって。で、もう一つのフラスコにはメタンとかアンモニアとか硫化水素とかのガスを混ぜたものを入れて、これは昔の地球の大気を表してる、って言うんだよね。それで、この二つのフラスコをゴム管で繋いで、そこに何回か電気火花をバチバチってやったんだ。これはね、雷を想定してるんだって。
そしたら、数週間後、フラスコの中の水がね、なんか黄緑色になって、栄養たっぷりの液体に変わったんだって。その液体の中には、アミノ酸とか脂肪酸とか、糖とか、いろんな有機化合物が入ってたんだってね。ミラーの指導教官だったハロルド・ユーリーっていう、ノーベル賞も取ったすごい人が、もう大喜びして、「神様がやったことも、きっとこれと同じだ!」って言ったんだって。
当時のニュースとかではね、もうフラスコをちょっと振るだけで、生命がそこから出てくるんじゃないか、みたいな感じだったみたいなんだよね。でもね、実際はそんなに単純じゃなかったんだよね。半世紀以上も研究が進んだ今でも、生命を合成するっていうのは、1953年当時と全然変わらずに、遠い道のりなんだよね。
科学者たちは今ではね、昔の地球の大気は、ミラーとユーリーが使ったような、生命の誕生に都合の良いガスじゃなくて、窒素とか二酸化炭素が混ざった、もっと全然反応しないようなものだった、って考えてるんだよね。それで、そういう難しいガスを使って、ミラーの実験をやり直した人もいるんだけど、今までにね、ほんの少しの、すごく原始的なアミノ酸しか作れてないんだって。
まあ、アミノ酸を作るのが問題じゃないんだよね。問題は、タンパク質なんだよね。
アミノ酸をね、ずらーっと繋げると、タンパク質になるんだよね。で、私たちには、そのタンパク質が、めちゃくちゃたくさん必要なんだよね。実際、どれくらいあるのか、誰もはっきりとは知らないんだけど、人間の体の中には、たぶん、100万種類ものタンパク質があるんじゃないか、って言われてて、一つ一つがね、もう奇跡みたいなものなんだよね。
確率的に考えて、タンパク質が存在するなんて、ありえないんだよね。タンパク質を作るには、アミノ酸をね、決まった順番に並べなきゃいけないんだよね。まるで、単語をスペルするときに、アルファベットを正しい順番に並べなきゃいけないみたいに。でもね、アミノ酸っていうアルファベットでできる単語は、めちゃくちゃ長いんだよね。
例えば、「コラーゲン」っていう、よくあるタンパク質の名前をスペルするには、たった8つのアルファベットを正しい順番に並べればいいんだけど、コラーゲンを作るには、1055個のアミノ酸分子を、絶対に正確な順番に並べなきゃいけないんだよね。
でも、ここがすごく大事なポイントなんだけど、私たちは、コラーゲンを「作って」るわけじゃないんだよね。コラーゲンは、勝手に、自然にできるんだよね。私たちが何か指示してるわけじゃないんだよね。ありえないって話は、ここから始まるんだよね。
はっきり言って、1055個のアミノ酸分子が、コラーゲンっていう分子になる確率は、ゼロなんだよね。絶対に起こりえないんだよね。どれくらいありえないか、っていうのを理解するためにね、ラスベガスのスロットマシンを想像してみて欲しいんだよね。でもね、それをめちゃくちゃ大きくするんだよね。具体的に言うと、高さ27メートルくらいにするんだよね。そうすれば、普通のスロットマシンみたいに3つか4つじゃなくて、1055個のリールを置けるよね。で、それぞれの回転盤には、20種類の記号が付いてるんだよね(それぞれが、普通のアミノ酸を表してる)。
その1055個の記号が、全部正しい順番に並ぶまで、何回レバーを引けばいいと思う?いや、実際、何回引いても無駄なんだよね。もし、リールの数を200個に減らしたとしても、それでも、全部の記号が正しい順番に並ぶ確率は、10のマイナス260乗なんだよね。その数字自体が、宇宙にある原子の数よりも大きいんだよね。
とにかくね、タンパク質って、すごく複雑なものなんだよね。ヘモグロビンっていうタンパク質は、たった146個のアミノ酸分子でできてるんだけど、タンパク質の基準からすると、もうミニチュアみたいなものなんだよね。それでも、アミノ酸の並び方は、10の190乗通りもあるんだよね。だから、ケンブリッジ大学の化学者だったマックス・ペルツっていう人は、23年間もかけて、やっとその謎を解き明かしたんだよね。
タンパク質分子をね、一つでも適当に作るなんて、ほとんど不可能なんだよね。天文学者のフレッド・ホイルって人がね、いい例えをしてて、「竜巻が廃品置き場を通り過ぎたら、完全に組み立てられたジャンボジェット機が残されてた、みたいなもんだ」って言ったんだよね。
でもね、私たちが話してるタンパク質は、何十万種類もあるんだよね。たぶん100万種類くらいあるんじゃないかな。で、知ってる限り、一つ一つが特別で、他とは違うんだよね。そして、私たちが健康で幸せに生きるためには、どうしても必要不可欠なんだよね。
役に立つためには、タンパク質分子は、アミノ酸を正しい順番に並べるだけじゃなくて、化学的な折り紙細工をして、特定の形に折りたたまなきゃいけないんだよね。そして、その複雑な構造を実現したとしても、タンパク質分子は、自分自身をコピーできないと、役に立たないんだよね。で、タンパク質分子は、コピーできないんだよね。そのためには、DNA(デオキシリボ核酸)が必要なんだよね。
DNAはね、コピーのエキスパートなんだよね。数秒で自分のコピーを作っちゃうんだよね。でも、それ以外には、何もできないんだよね。だから、私たちは矛盾した状況に陥ってるんだよね。タンパク質分子は、DNAがないと存在できないし、DNAは、タンパク質がないと何もできないんだよね。じゃあ、この二つは、お互いを支え合うために、同時に生まれた、って考えるべきなのかな?もしそうなら、すごいことだよね!
それにね、DNAとかタンパク質とか、他の生命に必要な要素を包み込む膜がないと、それらは繁栄できないんだよね。原子とか分子は、単独では生命を実現できないんだよね。私たちの体から原子を一つ取り出しても、それはただの砂粒みたいで、生命とは言えないんだよね。たくさんの原子が集まって、栄養たっぷりの細胞の中にいて、初めて、それらの違う物質が、生命っていう素晴らしいダンスに参加できるんだよね。細胞がなければ、ただの面白い化学物質にすぎないんだよね。でも、それらの化学物質がなければ、細胞は役に立たないんだよね。
デイビスっていう人が言ったように、「すべてが他のすべてを必要とするなら、分子社会は、最初どのようにして生まれたのか?」ってことなんだよね。これは、まるで、キッチンにある色んな材料が、いつの間にか集まってきて、勝手にケーキを焼き上げるみたいだよね。しかも、必要であれば、そのケーキは分裂して、さらに多くのケーキを生み出すんだよね。だから、私たちが生命を奇跡と呼ぶのは、当然だよね。私たちがまだ、それを理解し始めたばかりなのも、当然だよね。
じゃあ、何がこの不思議な複雑さを生み出したんだろう?うーん、一つ考えられるのは、それは、私たちが最初に見たときほど、そんなに…そんなに…不思議じゃない、ってことかもしれないんだよね。例えば、あの信じられないようなタンパク質分子について、私たちが目にする奇跡的な配列は、形成された後に現れた、って仮定してみよう。あの大きなスロットマシンで、一部のリールを操作できるとしたらどうだろう?まるで、ボウリングで、倒れそうなピンをコントロールするみたいに。言い換えると、タンパク質が、一気に形成されたのではなく、ゆっくりと進化してきたのだとしたら?
想像してみて欲しいんだよね。もし、人間を作るすべての材料、炭素とか水素とか酸素とか、その他もろもろを、水と一緒に容器に入れて、思いっきり振ったら、完璧な人間が出てくる、って想像してみて。それは信じられないことだよね。うーん、それは基本的に、ホイルとか他の人たち(熱心な創造論者も含む)が言ってることなんだよね。彼らは、タンパク質は、一気に自然に形成された、って考えてるんだよね。タンパク質は、そうじゃないんだよね。そうなることは、ありえないんだよね。
リチャード・ドーキンスが著書「盲目の時計職人」で述べてるように、アミノ酸が集まって塊になるには、何らかの、少しずつの選択のプロセスがあったはずなんだよね。そして、3つのアミノ酸分子が、ある単純な目的のために結合して、しばらくして、同じような小さなグループになって衝突し、「発見」して、何らかの改善をした、って言うんだよね。
生命に関係する化学反応は、実は、そこらじゅうにあるんだよね。私たちは、スタンリー・ミラーとハロルド・ユーリーみたいには、実験室で作れないかもしれないけど、宇宙は、簡単にそれをやっちゃうんだよね。自然界では、たくさんの分子が集まって、長い鎖を作るんだよね。それをポリマーって言うんだよね。糖分子は、よく集まって、デンプンになるんだよね。結晶は、生きているようなこと、例えば、自己複製したり、環境の刺激に反応したり、複雑なパターンを示したり、ができるんだよね。もちろん、それらは生命そのものを作ることはないけど、複雑な構造は、自然で、自発的で、完全に信頼できるものだってことを、何度も示してくれてるんだよね。宇宙全体には、生命がたくさんあるかもしれないし、ないかもしれないけど、整然とした自発的な集合は、たくさんあるんだよね。それは、対称的な雪の結晶から、土星の美しい環まで、あらゆるものの中に存在するんだよね。
自然は、物事を結集することに、ものすごく熱心だから、多くの科学者は、生命は、私たちが考えてるよりも、もっと避けられないものだって考えてるんだよね。ベルギーの生化学者でノーベル賞を受賞したクリスチャン・ド・デューブの言葉を借りると、「条件が整えば、物質の専門的な表現は、必ず起こる」んだって。ド・デューブは、そういう条件は、それぞれの銀河で、約100万回くらい出会う可能性がある、って考えてるんだよね。
もちろん、私たちに生命を与えてくれた化学物質には、何もすごく特別なものはないんだよね。もし、あなたが、別の生き物を作りたいなら、金魚でも、レタスでも、人間でも、実際には、たった4つの元素、炭素、水素、酸素、窒素があればいいんだよね。それに、少しだけ他のもの、主に硫黄、リン、カルシウム、鉄があればいいんだよね。30種類以上のそういう混合物を混ぜて、糖とか酸とか、その他の基本的な化合物を作れば、どんな生き物でも作れるんだよね。ドーキンスが言ったように、「生き物を作る物質について、特別なことは何もないんだよね。生き物は、分子の組み合わせで、他のすべてものと何も変わらないんだよね。」
結局のところ、生命は、信じられないほど素晴らしくて、満足のいくもので、もしかしたら奇跡的なものかもしれないけど、完全に不可能ではないんだよね。私たちは、自分自身の存在で、それを何度も証明してるんだよね。確かに、生命の起源に関する多くの詳細は、今でも解明されていないんだよね。本で読んだことのある生命に必要な条件は、どれも水を含んでるんだよね。ダーウィンが考えた生命の始まりの場所「小さな水たまり」から、今では一般的になってる生命の始まりの場所、泡立つ海の噴気口までね。
でも、それらは、単量体を重合体に変えるには、「脱水縮合」っていう反応が必要なことを無視してるんだよね。重要な生物学の論文に、ちょっと不快な感じで書かれてるんだけど、「研究者は、質量作用の法則により、原始の海では、実際には、どんな水を含む媒体でも、そのような反応はエネルギー的に不利である、ということで一致してる」んだよね。これは、砂糖をコップ一杯の水に入れて、それが角砂糖になることを期待するみたいなもんなんだよね。そんなことは起こらないはずなんだけど、自然界では、なぜか起こるんだよね。この化学的なプロセスが、一体どういう風に進んでるのか、っていうのは、この話の趣旨からは外れてるんだよね。私たちが知っておくべきことは、濡れた単量体は、重合体にはならない、ってことなんだよね。生命を作る時以外はね。どうしてこういうことが起こるのか?どうしてそうじゃないことが起こらないのか?これは生物学の大きな未解決問題なんだよね。
ここ数十年間で、地球科学の分野では、ものすごく意外な発見がたくさんあったんだよね。その一つが、地球の歴史の初期に、生命が誕生した、っていう発見なんだよね。20世紀50年代までは、生命は、6億年以上存在しない、って考えられてたんだよね。70年代になると、何人かの大胆な人たちが、25億年前には、生命が存在してたかもしれない、って考えるようになったんだよね。でも、現在確定されてる38億5000万年前っていうのは、本当に驚くほど早いんだよね。地球の表面が固まったのは、約39億年前だったんだよね。
「こんなに早い時期から、細菌レベルの生命が、適切な条件が整った惑星で進化することは、『難しくない』と推測するしかない」って、スティーブン・ジェイ・グールドは、1996年にニューヨーク・タイムズで語ったんだよね。別の場所でも彼は、「生命が誕生する可能性があると、それは化学的に必然的に起こる」と結論付けざるを得ない、って言ってるんだよね。
実際、生命は、あまりにも早く出現したから、何かが手助けしたに違いない、って考えてる権威者もいるんだよね。初期の生命は宇宙から来た、っていう考えは、昔からあって、時々歴史を賑わせてきたんだよね。1871年には、ケルビン卿自身が、イギリス科学振興協会の会議で、その可能性を示唆したんだよね。彼は、「生命の種子は、隕石によって地球に運ばれた可能性がある」って考えたんだよね。でも、この見方は、ずっと極端な意見に過ぎなかったんだよね。1969年9月のある日曜日までは。その日、数千人のオーストラリア人が、轟音を聞いて驚いたんだよね。そして、火の玉が、東から西に空を横切るのを見たんだよね。火の玉は奇妙なカタカタ音を発してて、ある人はメチル化アルコールのような臭いがするって言ったし、ある人はただただ不快な臭いがするって感じたんだって。
火の玉は、マーチソン上空で爆発して、その後、重さ5キロ以上の石が、雨のように降ってきたんだよね。マーチソンは、メルボルンの北にあるグールバーン渓谷にある、人口600人の小さな町なんだよね。幸い、怪我をした人はいなかったんだけどね。その隕石は珍しいもので、炭素質コンドライトって言うんだよね。町の人たちは親切で、約90キログラムの隕石を拾い集めてくれたんだよね。タイミングが最高だったんだよね。「アポロ11号」が地球に帰還して、月の石を満載して帰ってきたのが、たった2ヶ月前だったんだよね。だから、世界中の研究所が、宇宙からの石を待ち望んでたんだよね。いや、実際には、奪い合ってたんだよね。
マーチソン隕石は、45億年前のもので、アミノ酸が散りばめられてることがわかったんだよね。全部で74種類もあって、そのうち8種類は、地球上のタンパク質に関係してるんだって。隕石が落下してから30年以上経った2001年末、カリフォルニアのエームズ研究センターは、マーチソン隕石には、多価アルコールっていう一連の複雑な糖も含まれてることを発表したんだよね。この種類の糖は、これまで地球以外では発見されたことがなかったんだよね。
1969年以来、いくつかの炭素質コンドライトが、地球の軌道に入ってきてるんだよね。2000年1月にカナダのユーコン準州のタギッシュ湖の近くに落下した隕石は、北米の多くの場所で目撃されたんだけど、それもやっぱり、宇宙には、有機化合物が豊富に存在してることを証明してるんだよね。今では、ハレー彗星の約25%は、有機分子でできてるって考えられてるんだよね。もし、この手の隕石が、適切な場所、例えば地球に頻繁に落下すれば、生命に必要な基本的な元素が揃う、ってわけだよね。
パンスペルミア説、つまり生命は宇宙から来た、っていう理論には、2つの問題があるんだよね。第一に、それは生命がどのように誕生したのか、っていう質問に答えてないんだよね。ただ、責任を別の場所に押し付けてるだけなんだよね。第二に、パンスペルミア説の最も尊敬されてる支持者でさえ、推測の域を出ないことがあるんだよね。これは、かなり軽率だと言えるよね。DNAの構造を発見した二人、フランシス・クリックと彼の同僚のレスリー・オーゲルは、「賢い宇宙人が、故意に生命の種子を地球に蒔いた」って考えてるんだよね。グリビンは、この見方を「科学的地位の最果てにある」って言ってるんだよね。言い換えれば、この見方が、ノーベル賞受賞者によって提唱されたものでなければ、ただただ馬鹿げてるって思われてたでしょうね。ホイルと彼の同僚のチャンドラ・ウィクラマシンゲは、宇宙空間は、私たちに生命を与えただけでなく、インフルエンザとか腺ペストのような多くの病気ももたらした、って考えてるんだよね。これは、パンスペルミア説の影響力をさらに弱めてるよね。生物化学者は、そういう見方を簡単に反論できるからね。
何が生命の始まりを引き起こしたにせよ、それはたった一度しか起こらなかったんだよね。これは生物学の最も異常な事実の一つで、私たちが知ってる中で最も異常な事実かもしれないんだよね。生命を持ったものはすべて、植物でも動物でも、同じ原始的な動きに遡ることができるんだよね。遠い昔のある時、小さな化学物質の袋がうごめいて、生命が生まれたんだよね。それは栄養を吸収して、軽く脈打って、短い存在を経験したんだよね。そんなことは、以前にもあったかもしれないし、何度もあったかもしれないんだよね。でも、その祖先は、もう一つ、特別なことをしたんだよね。自分を二つに分けて、子孫を生み出したんだよね。小さな遺伝物質が、一つの生命体から別の生命体に受け継がれて、その後、ずっと続いて、止まらなかったんだよね。それが、私たちみんなを作った瞬間なんだよね。生物学者は、それを「大誕生」と呼ぶことがあるんだよね。
「世界のどこに行っても、動物でも植物でも、虫でも、言葉にできないものでも、生きているものは、同じ辞書を使い、同じコードを知っている。すべての生命は家族なんだ」ってマット・リドリーは言ってるんだよね。私たちはみんな、同じ遺伝的な奇跡の結果なんだよね。その奇跡は、約40億年も受け継がれてきて、最終的には、人間の遺伝学を少し勉強して、間違いだらけの酵母細胞を組み立てることさえできるんだよね。そして、その酵母細胞は、本物の酵母細胞に仕事をさせて、まるで自分の仲間のように振る舞うんだよね。本当に意味のある意味で、それは確かに仲間なんだよね。
生命の夜明けは、友好的な同位体地球化学者のオフィスに、本棚に飾られてるんだよね。彼女の名前はヴィクトリア・ベネット。彼女のオフィスは、キャンベラにあるオーストラリア国立大学の地球科学棟にあるんだよね。ベネットさんはアメリカ人で、2年間の契約で1989年にカリフォルニアからオーストラリア国立大学に来て、それ以来ずっとそこにいるんだよね。2001年末に私が彼女を訪ねた時、彼女は私に、目立たない、重くて大きな石を渡してくれたんだよね。それは縞模様の白い石英と、斜輝石っていう灰緑色の物質でできてたんだよね。その石は、グリーンランドのアキリア島から来たんだよね。1997年に、その島で、すごく古い岩が発見されたんだよね。その岩は、38億5000万年前のもので、今までに見つかった中で最も古い海洋堆積物を表してるんだよね。
「あなたが手に持ってるものの中に微生物が存在するかどうかは、はっきりとはわからないんだよね。それを調べてみるには、砕かなきゃならないんだよね」ってベネットさんは言ったんだよね。「でも、それは、過去に最も古い生命が発掘された鉱床と同じ場所から来たものだから、その中には、かつて生命があった可能性があるんだよね。」いくら注意深く探しても、本物の微生物の化石は見つけられないんだよね。どんな単純な生物でも、海洋の泥が石に変わる過程で焼けてしまうからね。もし私たちが岩を砕いて、顕微鏡で詳しく調べたら、微生物の残骸である化学物質、炭素同位体と、アパタイトっていうリン酸塩が見つかるだけなんだよね。それらは一緒に、その岩の中に、かつて生物の小さな世界が存在していたことを示してるんだよね。「それらの生物がどんな姿をしていたのかは、推測するしかないんだよね」ってベネットさんは言ったんだよね。「それは、おそらく、最も基本的な生命だったでしょう。でも、それは確かに生命だったんだよね。それは生きて、繁殖してたんだよね。」
そして、ついに、私たちの世代がやってきたんだよね。
もし、すごく古い岩を掘り下げたいなら、ベネットさんのように、オーストラリア国立大学は、長年、第一の選択肢だったんだよね。これは、主に、ビル・コンプストンっていう機知に富んだ人がいたからなんだよね。彼は、今は退職してるんだけど、20世紀70年代に、世界初の「高感度高分解能イオンマイクロプローブ」、略して「Shrimp(小エビ)」を開発したんだよね。この装置は、ジルコンっていう微小な鉱物の中にあるウランの崩壊率を測定するために使われるんだよね。ジルコンは、玄武岩以外のほとんどの岩石に含まれてて、寿命が非常に長く、沈み込み以外のどんな自然現象にも耐えることができるんだよね。地殻のほとんどは、いつか地球の内部に戻ってしまうんだけど、時々、例えば、オーストラリアの西部とかグリーンランドで、地質学者たちは、ずっと地表に残ってた岩を見つけることがあるんだよね。コンプストンの装置は、これらの岩の年代を、比類なき精度で測定できるんだよね。「小エビ」のサンプルは、地球科学部の独自の作業場で製造されてて、コスト削減のために部品を組み合わせて作られたように見えるんだけど、効果は非常に優れてるんだよね。1982年に最初の公式テストが行われて、オーストラリアの西部から採取された、これまでに見つかった中で最も古い岩の年代を測定し、43億年前っていう結果が出たんだよね。
「新しい技術を使って、そんなに早く重要なことが発見されたから、当時はセンセーションを巻き起こしたんだよね」ってベネットさんは言ったんだよね。
彼女は、私を廊下に連れて行って、現在のモデル、「小エビ2号」を見せてくれたんだよね。それは大きくて重いステンレス製の装置で、長さ約3.5メートル、高さ1.5メートルくらいで、深海探査機みたいに頑丈だったんだよね。ニュージーランドのカンタベリー大学から来たボブが、前の操縦席に座って、画面に映る変化し続けるデータから目を離さずに見てたんだよね。彼は、午前4時からずっとそこにいるって言ってたんだよね。今は午前9時で、彼は正午まで勤務するんだよね。「小エビ2号」は、一日24時間稼働してるんだよね。年代を特定する必要がある岩石がたくさんあるからね。二人の地球化学者に、この仕事がどのように行われてるのか、尋ねてみたら、彼らは豊富な同位体とかイオン化の程度とかについて、延々と話してくれるでしょうね。そういうのは、聞いてて可愛らしいんだけど、理解するのは簡単じゃないんだよね。
簡単に言うと、彼らは、荷電した原子のビームをサンプルに照射することで、ジルコンサンプル中の鉛とウランの含有量のわずかな違いを測定して、岩石の年代を正確に特定することができるんだよね。ボブは私に、ジルコンのデータを読むには、約17分かかると言ったんだよね。信頼できるデータを取得するためには、それぞれのジルコンを、数十回読まなければならないんだよね。実際、そのプロセスは、コインランドリーに行くのと同じくらいの作業量で、同じくらいの刺激しかないように見えるんだよね。しかし、ボブは楽しそうだったんだよね。実際、ニュージーランドから来た人は、みんな楽しそうなんだよね。
地球科学部の庭は、奇妙な組み合わせで、一部はオフィスで、一部は実験室で、一部は機器室なんだよね。「昔は、ここで何でも作ってたんだよね」って彼女は言ったんだよね。「私たちには、自分のガラス吹き職人までいたんだよね。でも、彼は退職しちゃったんだよね。でも、まだ石を叩く正社員が2人いるんだよね。」彼女は、私の顔に少し驚いた表情が出てるのを見て、「叩く石がたくさんあるんだよね。ものすごく注意深く準備して、岩が、以前のサンプルで汚染されてないことを確認する必要があるんだよね。ホコリがついてないか、綺麗かどうか、ってね。それは、かなり厳格なプロセスなんだよね」って説明してくれたんだよね。そして、彼女は、私にいくつかの砕石機を見せてくれたんだよね。それらの機械は確かに綺麗だったけど、二人の砕石工は、コーヒーを飲みに行ってるようだったんだよね。砕石機の隣には、色んな形、色んな大きさの岩が入った大きな箱がいくつかあったんだよね。オーストラリア国立大学は、確かにたくさんの岩を扱ってるんだよね。
見学を終えてベネットさんのオフィスに戻ると、彼女の壁に掛かってるポスターに気が付いたんだよね。それは、アーティストの豊かな想像力で描かれた、35億年前の地球のように見えるものだったんだよね。当時、生命は始まったばかりだったんだよね。その古い時代は、地球科学では太古代って呼ばれてるんだよね。その絵には、巨大な活火山とか、赤くて眩しい空とか、湯気を立ててる赤銅色の海がある、見慣れない情景が描かれてたんだよね。前景の影には、細菌が寄生してる岩、ストロマトライトがぎっしり詰まってるんだよね。それは、生命を生み出し、育むのに、有望な場所には見えないんだよね。私は、彼女に、その絵は正確なのか、って質問したんだよね。
「うーん、当時、実は、すごく涼しかった、って考えてる学派もあるんだよね。太陽は、ずっと弱かったからね(私は後に、生物学者が、この見方を「中華料理店」問題だと冗談めかして呼んでることを知ったんだよね。暗い太陽があるからね)。もし、大気がなかったら、太陽が弱かったとしても、紫外線が、初期の分子結合を引き裂いてしまうはずなんだよね。でも、あそこに」って彼女は、ストロマトライトを軽く叩きながら、「生命は、ほとんど表面にあったんだよね。それは、謎なんだよね。」
「じゃあ、私たちは、当時世界がどんなものだったのか、実際には知らないの?」
「うーん」って彼女は考えて、同意したんだよね。
「とにかく、生命にとっては、あまり有利ではなかったようだね。」
彼女は優しく頷いたんだよね。「でも、生命に適したものがあったのは確かだよね。そうでなければ、私たちはこの世に生まれてこなかっただろうから。」
その環境は、私たちには適してないのは確かだよね。もし、あなたがタイムマシンから出て、その古代の太古代の世界に足を踏み入れたら、すぐに引っ込むでしょうね。当時の地球には、今日の火星と同じように、私たちが呼吸できる空気がなかったからね。それに、地球は、塩酸とか硫酸から発生する有毒ガスで満ち溢れてて、服を腐食させたり、皮膚に水ぶくれを作ったりするほど強烈だったんだよね。地球は、ヴィクトリア・ベネットのオフィスにあったポスターに描かれてるような、綺麗で鮮やかな景色でもなかっただろうね。当時の大気は、濁った化学物質でいっぱいで、太陽光はほとんど地表に届かなかったんだよね。あなたは、頻繁に通り過ぎる明るい稲妻の光で、短い時間だけ、限られたものしか見ることができなかっただろうね。とにかく、それは地球だったんだけど、私たちが自分の地球だと認識できないような地球だったんだよね。
太古代の世界には、結婚記念日は全くなかったんだよね。20億年間、細菌が唯一の生命形態だったんだよね。彼らは生きて、繁殖して、数を増やしたけど、もっと挑戦的な生存レベルに発展しようとはしなかったんだよね。生命の最初の10億年の間に、シアノバクテリア、または藍藻っていう細菌が、豊富に存在する資源、水の中に特に豊富にある水素を利用することを学んだんだよね。彼らは水分子を吸い込んで、水素を食べて、酸素を排出したんだよね。その過程で、光合成を発明したんだよね。マルグリスとセーガンが指摘したように、「光合成は、疑いなく、この惑星の生命史上、最も重要な新しい代謝方法だ」って言えるんだよね。光合成は、植物じゃなくて、細菌によって発明されたんだよね。
シアノバクテリアが増えるにつれて、世界は酸素で満たされ始め、酸素が有毒な微生物は、衝撃を受けたんだよね。その時代には、そういう微生物が、そこらじゅうにいたからね。嫌気性(または酸素を使わない)の世界では、酸素は猛毒なんだよね。私たちの白血球は、実際には、酸素を使って侵入してくる細菌を殺してるんだよね。酸素は基本的に有毒だってことを聞くと、驚く人が多いよね。多くの人は、酸素を吸うのは気持ちがいいと思ってるからね。でも、それは、私たちが酸素を利用できるように進化したからにすぎないんだよね。他のものにとっては、それは恐ろしいものなんだよね。バターを腐らせたり、鉄を錆びさせたりするんだからね。私たちでさえ、酸素への耐性は限度があるんだよね。私たちの細胞内の酸素濃度は、大気の約10分の1しかないんだよね。
酸素を利用できる新しい種類の細菌には、2つの利点があったんだよね。酸素は、エネルギーを生み出す効率を高めることができたし、競争相手の微生物を打ち負かすことができたんだよね。あるものは、嫌気性の泥沼とか湖底の世界に撤退したし、あるものは、その場所にとどまって、後になって(ずっと後になって)、私たちのような消化力のある場所に移動してきたんだよね。相当数の原始的な細菌が、今この瞬間も、あなたの体の中で生きてて、食べ物の消化を手伝ってるんだけど、ほんの少しの酸素でも嫌がってるんだよね。そして、適応できなかった無数の他の細菌は、死んでしまったんだよね。
シアノバクテリアは逃げ出して、成功したんだよね。最初は、彼らが作り出した余分な酸素は、大気中に蓄積されることなく、鉄と結合して酸化鉄になって、原始の海底に沈んでいったんだよね。何百万年もの間、世界は本当に錆びてたんだよね。この現象は、縞状鉄鉱床に鮮明に記録されてて、今日では、世界の鉄鉱石の多くを提供してるんだよね。何千万年も経っても、これ以上のことはほとんど起こらなかったんだよね。もしあなたが、その原生代初期の世界に戻ったとしても、地球上の未来の生命が有望であることを示す兆候は、あまり見つけられないでしょうね。おそらく、あちこちの隠れた水たまりの中に、生命のある薄い膜に出会ったり、海岸の岩に光る緑色とか茶色のものを見たりするかもしれないけど、それ以外には生命は依然として姿を現してないんだよね。
しかし、約35億年前から、より強固なものが明らかになり始めたんだよね。海の浅い場所では、目に見える構造が現れ始めたんだよね。シアノバクテリアが、いつものように化学的なプロセスを完了してる間、彼らは少し粘着性を持つようになったんだよね。その粘着性は、小さなほこりとか砂粒をくっつけて、一緒に、ちょっと奇妙だけど、頑丈な構造を作り出したんだよね。それが、浅瀬のストロマトライトなんだよね。ヴィクトリア・ベネットのオフィスの壁に掛かってた絵にあったものだよね。ストロマトライトには、色んな形、色んな大きさがあったんだよね。巨大なカリフラワーに見えることもあれば、毛むくじゃらのマットみたいに見えることもあったんだよね(ストロマトライトは、ギリシャ語でマットを意味するんだよね)。円柱状になって、水面から数十メートルも突き出すこともあったんだよね。時には、100メートルにも達することもあったんだよね。どんな形をしてるにせよ、ストロマトライトは、生命のある岩なんだよね。ストロマトライトは、世界初の共同プロジェクトを表してて、ある種類の原始的な生物は表面で生活して、別のものは下で生活して、一方が他方の作り出した条件を利用してたんだよね。世界には、最初の生態系ができたんだよね。
科学者たちは長年、化石構造からストロマトライトのことを知ってたんだよね。でも、1961年に、彼らは遠く離れたオーストラリア北西海岸のシャーク湾で、生きているストロマトライトの社会を発見して、本当に驚いたんだよね。それは全く予想外のことだったんだよね。あまりにも予想外だったから、科学者たちは、自分たちの発見を十分に認識するまでに、何年もかかったんだよね。でも、今日では、シャーク湾は観光地になってるんだよね。少なくとも、辺鄙な場所がなりうる観光地にはなってるんだよね。木の板でできた歩道が湾に伸びてて、観光客は、その上を散歩して、水面下で静かに呼吸してるストロマトライトをよく見ることができるんだよね。ストロマトライトは光沢がなく、灰色で、大きな牛の糞みたいな感じに見えるんだよね。でも、地球上の35億年前から残ってる生物を見るのは、めまいがするような瞬間なんだよね。リチャード・フォルテが言ったように、「それは、確かにタイムトラベルなんだよね。もし世界が、本当の奇跡に合っていれば、この景色は、ギザのピラミッドと同じくらい有名になるだろうね。」あなたは全くそうは思わないだろうけど、これらの暗い岩には生命が満ち溢れてて、推定では(明らかに推定だけど)、1平方メートルあたり36億個の微生物が生息してるんだよね。もしあなたが注意深く見れば、時々、小さな泡が水面から出てくるのが見えるかもしれないんだよね。それは彼らが酸素を放出してるんだよね。20億年間、この小さな努力が、地球の大気中の酸素を20%に増やして、生命の歴史の次の章、そしてより複雑な章への道を開いたんだよね。
シャーク湾のストロマトライトは、地球上で最も進化が遅い生物で、現在では最も希少な生物の一つだと考えられてるんだよね。より複雑な生命形態の条件を整えた後、彼らは、ほとんどどこでも、彼らが存在できるようにした他の生物によって、追い出されていったんだよね。(彼らがシャーク湾に存在してるのは、そこの水が、彼らを通常食べちゃう生物にとっては、塩分が多すぎるからなんだよね。)
生命が複雑になるまでに、どうしてそんなに時間がかかったんだろう?理由の一つは、単純な生物が、大気に十分な酸素を注入するまで、世界が待ってなかったからなんだよね。「生物たちは、頑張ってそれをやるつもりはなかったんだよね」ってフォルテは言ってるんだよね。約20億年、つまり地球の歴史の約40%を費やして、大気中の酸素濃度は、現在のレベルに大体到達したんだよね。でも、条件が整うと、明らかに突然、全く新しい細胞が現