Chapter Content
ええと、まあ、導入みたいなもんですね。岸辺を散歩しながら考えること、みたいな。
人間って、いつも自分のことばっかり気にしてるじゃないですか。自分の歴史とか、心理とか、哲学とか、神様とかね。ほとんどの知識が、人間中心っていうか、人間が宇宙で一番大事みたいな。でも、僕が物理が好きな理由って、もっと遠くが見える窓を開けてくれるからなんですよね。なんか、新鮮な空気を吸って、頭がスッキリするっていうか。
で、その窓から見える景色が、またすごいんですよ。宇宙について、ずいぶんわかってきたことも多いんです。昔はね、地球が平らだとか、世界の中心だって信じてたし。宇宙も小さいと思ってたし、ずっと変わらないと思ってた。人間も、他の動物とは全然違う、特別な存在だって。それが、今じゃあ、クォークとか、ブラックホールとか、光子とか、空間のゆらぎとか、体の中の細胞のすごい構造とか、色々知ってるわけでしょ?
まるで、大きくなった子供が、自分の部屋とか遊び場だけじゃなくて、世界がこんなに広くて、いろんな発見があって、自分の思ってたことと全然違うって気づくみたいな。宇宙って、本当に複雑で、広大で、いつも新しい顔を見せてくれる。知れば知るほど、その多様性とか、美しさとか、シンプルさに驚かされるんですよね。
でもね、知れば知るほど、まだ知らないことの方が、ずっとずっと多いってこともわかるんです。望遠鏡がどんどん高性能になればなるほど、見える空はもっともっと不思議で、予想外のものばかりになるし。物質の細かいところを観察すればするほど、その構造の深さに気づかされる。今じゃあ、140億年前のビッグバン、つまり、すべての銀河が生まれた大爆発まで見れるようになった。でも、もうすでに、ビッグバンよりもっとすごいものの兆候が見え始めてるんです。空間が曲がってることもわかったし、空間が振動する量子の粒でできてるんじゃないかっていう予測も出てきてる。
世界の基本的な法則についての知識は、どんどん増えてる。20世紀に学んだ物理学の知識をまとめようとすると、世界は僕らが学校で習ったこととは全然違うんじゃないかっていうヒントがいっぱい出てくるんです。世界の基本的な構造は、量子的な出来事の集まりでできていて、そこには時間も空間も存在しない。量子場が空間、時間、物質、光を描き出し、出来事の間で情報を交換する。リアリティっていうのは、独立した出来事のネットワークで、確率がそれらを結びつけていて、二つの出来事の間では、空間、時間、物質、エネルギーは、確率の雲の中に溶けてしまう。
基礎物理学の未解決の大きな問題、つまり、量子重力を研究しているうちに、驚くべき新しい世界がだんだん見えてきてるんです。20世紀の物理学には、二つの大きな発見、一般相対性理論と量子論があるんだけど、問題は、この二つを通して僕らが見ている世界をどうやって合理的に統合できるかってことなんです。この本は、量子重力、そして、その研究が示す素晴らしい世界に捧げたいと思ってます。
この本は、今研究されていること、すでにわかっていること、そして、これから理解し始めると思われることの基本的な性質についての実況中継みたいなものです。今僕らが世界を理解するために使っている重要な概念の古い起源から始まって、20世紀の二つの偉大な発見、アインシュタインの一般相対性理論と量子力学について説明し、これらの物理学の中心に焦点を当てようとしています。量子重力の研究で現在現れつつある世界のイメージを語り、自然が与えてくれる最新のヒント、例えば、プランク衛星による宇宙の標準モデルの検証や、CERNによる予想されていた超対称性粒子の観測の失敗などにも注意を払っています。これらのアイデアの推論、つまり、空間の離散的な構造、小さなスケールでの時間の消失、ビッグバンの物理学、ブラックホールの起源、そして、物理学の基礎における情報の重要性についても議論します。
プラトンの『国家』の第7巻には、有名な神話があります。人々が暗い洞窟の奥深くに縛られていて、背後の炎が壁に投影する影しか見ることができない。彼らはそれが現実だと思っている。一人の男が束縛を逃れ、洞窟から脱出し、太陽の光とより広い世界を発見する。最初は彼の目は光に順応できず、めまいと混乱を感じる。しかし、最終的に彼は見ることができ、興奮して仲間の元に戻り、彼が見たものを伝える。彼らは信じられない。
僕らもみんな、洞窟の奥深くにいて、自分の無知とか偏見に縛られて、限られた感覚が与えてくれる影しか見えていない。もっと遠くを見ようとすると、混乱するし、慣れてない。でも、それでも試してみるべきで、それが科学なんです。科学的な思考っていうのは、世界を探索して、描き直して、だんだん完璧になっていくイメージを見せて、より効果的な方法で考えるように教えてくれる。科学は、思考方法の絶え間ない探求であり、その力は、想像力を使って先入観を覆し、現実の新しい側面を明らかにし、より新しく、より効果的な世界のイメージを構築することにある。この冒険は、過去のすべての知識に頼るけど、その核心は変化なんです。この無限の世界は輝いていて、僕らはそれを自分の目で確かめたい。その神秘と美しさに魅了されるけど、視線の外にはまだ未踏の地が広がっている。僕らの不完全で不正確な知識は、未知の無限の深淵の上に揺らいでいるけど、それが人生を無意味にするのではなく、むしろ面白くて貴重なものにする。
この本を書いたのは、この冒険の中で僕の目に見えた奇跡を記録するためなんです。頭の中には特定の読者がいます。今日の物理学については何も知らないけど、世界の基本的な構造、僕らがすでに知っていること、そして、まだ理解していないこと、そして、現在の研究分野を発見することに喜んでくれる人。この視点から見える現実の全体像と、その心を揺さぶる美しさを伝えたいんです。
この本は、同僚、世界中の同志、そして、科学に情熱を抱き、この旅を始めることを切望している若者にも書いています。相対性理論と量子物理学の光を使って、物理的な世界の構造のおおまかな輪郭を描き出し、この二つを統合しようとしています。この本は、事実を明らかにするだけでなく、明確な視点を伝えようとしています。なぜなら、物理学の抽象的な専門用語は、より広い視界を遮ることがあるからです。科学は、実験、仮説、公式、計算、議論で構成されているけど、これらは単なる道具であり、音楽家の楽器のようなものです。音楽で重要なのは音楽そのものであるように、科学で本当に重要なのは、科学が提供する世界への理解なんです。地球が太陽の周りを回っているという発見の重要性を理解するために、コペルニクスの複雑な計算を理解する必要はない。地球上のすべての生物が共通の祖先を持っているという発見の重要性を理解するために、ダーウィンの本にある複雑な議論を理解する必要もない。科学は、ますます広い視点で世界を解釈することなんです。
僕らは、世界の全く新しいイメージを探求していて、この本は、現在の研究の進捗状況を説明するものです。ある夏の夜、同僚であり友人でもある人と岸辺を散歩していたら、彼が僕にこう尋ねました。「それで、物事の本当の本質って何だと思う?」この本は、まさにその質問に対する僕の答えなんです。