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Calculating...

えーっと、今回は「金融の呪い」みたいなテーマでお話してみようかなと思います。チャーチルが昔、「金融が威張らず、産業がもっと満足していればいいのに」って言ったんですよね。これ、結構深い言葉だなと思って。

あのね、ICIとか、アメリカのGEとイギリスのGECとか、シアーズ・ローバックとか、マークス&スペンサーとか、まあ、いろんな会社があるじゃないですか。それぞれ細かい事情は違うんだけど、共通点があるんですよね。20世紀にはものすごい成功を収めたんだけど、1980年代から2000年代にかけて、ビジネスに対する考え方が変わってきちゃったっていうか。

昔の経営者、例えばデンysヘンダーソンとか、サイモン・マークスとか、アルフレッド・スローンとか、オーウェン・ヤングとかは、自分たちのことを公共的な存在だと思ってて、いろんな関係者に対して責任を感じてたわけ。でも、後から出てきた経営者たちは、もっと狭い視野で自分の役割を捉えるようになっちゃった。四半期ごとの報告とか、株価とか、そういう数字ばかり気にするようになったんだよね。

で、そういう金融的な指標を重視した結果、最初は株価が上がったりして、市場は喜んだんですよ。ICIの株価は1997年に過去最高値を記録したし、GECも2000年に最高値つけたし。GEの株価も、ウェルチがトップになった頃は2ドルちょっとだったのが、辞める頃には50ドル近くまで上がったし。シアーズも、金融サービスに手を出したって発表したら、株価が2年で倍になったし、その後もずっと上がり続けたし。

でもね、もし1990年代に、株主価値を重視する時代に、そういう有名企業に投資してたら、GECとシアーズは全部すっからかんになっちゃったし、他の会社もほとんどお金を失ってたと思う。一番マシだったのはICIで、2007年に買収されたんだけど、それでも10年前の3分の1くらいの値段だったかな。GEもマークス&スペンサーも、その後、ピーク時の価値から80%以上も下がっちゃったし。

1995年だったら、ほとんどの金融アドバイザーが、そういう株をポートフォリオに入れるのは安全で保守的だって言ってたと思うんですよ。つまんないけど、安全だってね。でも、そのアドバイスはとんでもなく間違ってたってこと。

どの会社も、アナリストとか投資銀行が褒めちぎった活動が、実は経営の根本的な問題を覆い隠してたんですよね。それが長期的な衰退の原因になっちゃった。マークス&スペンサーみたいに、コストを削減したり、価格を上げたりして、長期的に見てビジネスの魅力を損なうようなことをしてたし。GEの金融サービスみたいに、利益を操作して、将来のお金を前借りして、今の利益を大きく見せたりね。エンロンみたいに、将来稼げるかもしれない利益を前倒しで計上するような会計処理をしたりね。

とにかく、投資コミュニティが喜ぶような取引に熱心だったんだけど、それが価値を生むことはほとんどなくて、むしろ価値を破壊することが多かった。GEがそうだったようにね。どの会社も、株価が一時的に上がった後に、長い、あるいはGECみたいに急激な衰退が待ってたわけ。パイプから少しずつ漏れてたものが、最終的には大洪水になっちゃったっていうか。

まあ、株主価値の要求に抵抗できた会社もあったんですよ。例えば、プロクター・アンド・ギャンブルとか、コルゲート・パルモリーブとか、コカ・コーラとか、ユニリーバとか、ネスレとか、消費財メーカーね。そういう会社は、今でもマーケティングの人が中心で、顧客のニーズに応えることを最優先にしてるんですよね。それが、これらの会社が長持ちする秘訣なんだと思う。

2010年に、3Gっていうプライベート・エクイティ・ファームが、バーガーキングを買収してアメリカに登場したんだけど、彼らは、ゼロベース・予算っていうコスト削減の手法で、そういう消費財ビジネスからもっと価値を引き出せるって主張したんですよ。もちろん、一時的には価値を引き出せるかもしれないけど、いずれパイプから水が漏れ始めるんですよね。

3Gの主なビジネスは、ビールと食品だったんだけど、一連の買収でABインベブっていう世界最大のビール会社を作って、ステラとか、アンハイザー・ブッシュとか、コロナとか、いろんなブランドを持つようになった。ウォーレン・バフェットが、3Gのクラフト・ハインツっていうコングロマリットの設立を支援したんだけど、それがちょっとした失敗だったんですよね。マカロニチーズとベイクドビーンズを組み合わせちゃったっていうか。

それが、どうも魅力的な組み合わせとは言えなかったみたいで。2017年に、クラフト・ハインツが、アングロ・ダッチのユニリーバを買収しようとしたんだけど、ヨーロッパの会社の取締役会とか、機関投資家とか、イギリス政府の反対で、すぐに頓挫しちゃった。その頃には、クラフト・ハインツの売り上げが落ちてるのが明らかになってて、最初は市場シェアが落ちて、そのうち利益も落ちてきた。今では、バフェットの投資額は半分になっちゃったし。ABインベブの成長は、クラフト・ハインツほど速くなかったけど、衰退も同じような軌跡を辿ってるんだよね。

でね、金融サービスの話から離れる前に、ちょっと自分の体験談を話させてください。実は、私もハリファックスっていう金融機関の衰退に、少し関わってたんですよ。ハリファックス・ビルディング・ソサエティは、1853年にヨークシャーのハリファックスっていう町で設立されたんですよ。イギリスには、そういう地域の中小企業家が、お互いや地域の人たちが家を買うのを助けるために作った、似たような機関がいくつかあったんだけど、ハリファックスは一番成功して、イギリス全土に広がっていったんですよね。

私が1991年に取締役に就任した時、「ハリファックス」は世界最大の住宅ローン貸し出し業者だったんですよ。本社はまだヨークシャーのハリファックスっていう小さな町にあって(今はハリファックスが支配してるけど)、そこで働いてる人のほとんどが、地元で生まれ育った人たちだった。その組織は、当時のマークス&スペンサーみたいに、強力なシステムと文化があれば、ごく普通の人でも素晴らしいことができるっていうことを示す良い例だったんですよ。

他のビルディング・ソサエティと同じように、ハリファックスは、その協同組合的な起源から、相互扶助的な組織構造を維持してたんです。取締役会は、原則として、顧客会員によって選出されるんだけど、実際には、株主を持つ普通の会社と同じように、取締役会は自己永続的なものだったんですよね。

1986年に法律が変わって、ビルディング・ソサエティが出来る活動の制限が緩和されて、株式会社化できるようになっちゃった。株主価値を重視する考え方が広まって、株式会社だけが大規模なビジネスに適した組織形態だって考えられるようになったんですよね。イギリス・テレコムとか、水道・電気事業の民営化とか、サッチャー時代の代表的な政策として知られてるけど。投資銀行とか、法律事務所とか、不動産仲介業者とか、これまでパートナーシップで行われてきた活動が、株式会社になったりね。

でも、そういう変化は、必ずしも企業にとって良い結果をもたらしたわけじゃなかった。1986年のビルディング・ソサエティ法もそうだったと思う。1989年に、アビー・ナショナル・ビルディング・ソサエティが、会員に株式を分配して、ロンドン証券取引所に上場したんですよ。それで、ハリファックスもその状況を検討せざるを得なくなっちゃって。

私がハリファックスに関わるようになったのは、投資銀行家たちが、「株式会社化はビジネスの発展に不可欠だ」っていう結論を予測して、それに反論する論文を書いたのがきっかけだった。私みたいに、ディールメーカーの意見に懐疑的な人たちは、取締役会とか、経営陣とか、アドバイザーが集まった会議で議論に勝ったんだと思ってたんだけどね。

でも、問題は先送りされただけだった。1994年の4月に、ラジオをつけたら、ロイズ銀行が、チェルトナム&グロスター・ビルディング・ソサエティの会員に18億ポンドを分配する代わりに、ロイズ銀行による買収を承認するように提案したってニュースが流れてきたんですよ。その時、相互扶助的なビルディング・ソサエティの時代は終わったんだって思った。そんな提案に抵抗できる会員はほとんどいないだろうし、取締役会もそれを拒否するように勧めることはできないだろうってね。

1997年に、私はハリファックス・ビルディング・ソサエティの取締役に再選されたんだけど、その時、200万人以上の票を獲得したんですよ。(これは、イギリスの選挙で他の候補者が獲得した票数よりも多いと思う。まあ、私が個人的に人気があったというより、総額200億ポンド相当の無料の株式を約束したからだと思うけどね。世界最大の贈与、あるいは賄賂だって考える人もいるかもしれないけど。)

ハリファックスは、新規の顧客が株式を受け取れないように対策を講じた。アビーは、新しい事業分野に多角化した後、損失を被り、2004年にスペインのサンタンデール銀行に買収された。他の2つの旧ビルディング・ソサエティであるブラッドフォード&ビングリーとノーザン・ロックは、2008年の金融危機で破綻し、国有化された。2013年には、ロイズがチェルトナム&グロスターのビジネスを完全に閉鎖しちゃった。

多くの人が、株式会社化をハリファックスの破滅の原因だと考えてるんだけど、私は、それ以前の取締役会の決定、つまり、日々の資金残高を管理する財務部門を、それ自体が利益センターとして設立したことが、衰退の始まりだったと思ってる。短期金融市場での投機で利益を上げようとしたんだよね。

競争優位性によってのみ利益が維持できるって教えてきた経済学者としては、この多角化には疑問があったし、顧客ニーズに応えることによってのみ利益が得られるって考えてる取締役会のビジネスマンも、同じように疑問を感じてたと思う。短期金融市場での取引は、基本的にゼロサムゲームで、一方が利益を得れば、他方が損失を被るわけじゃないですか。じゃあ、うちの会社だけじゃなくて、このビジネスに関わってるすべての会社が主張してる、取引利益の源泉は何なんだろう?

経験豊富な銀行家たちは、そんな質問に呆れて首を振るだけだった。もし答えてくれるとしても、「うちのトレーダーは特別に洞察力があって先見の明があるんだ」って言うんだけど、実際に会ってみると、そうは思えなかったんだよね。手品みたいなやり方で持続可能な利益が得られるっていう幻想は、2008年の金融危機で打ち砕かれたし、それが危機の主な原因だったと思う。

でも、多くの経営者にとって、最もエキサイティングで潜在的に収益性の高い多角化は、企業向け融資だった。2001年に、私が取締役を辞めた後、その野心がスコットランド銀行との合併につながったんだよね。新しい組織であるHBOSは、銀行の立派なエディンバラ本社を維持したんだけど、実質的にはハリファックスによる買収だった。(もし商業銀行業を発展させるつもりなら、必要なスキルを持ってる会社と合併する方がいいと思ってたから、私も賛成したかもしれない。)

でも、買収された銀行には、拡大に必要なスキルが十分じゃなかった。HBOSの企業向け銀行業務の責任者になったスコットランド銀行の従業員であるピーター・カミングスは、無謀な行為で金融サービス機構(FSA)から50万ポンドの罰金を科せられた。これは、グローバル金融危機の後にイギリスの銀行家に科せられた唯一の罰金だった。その後数年間、HBOSとそのスコットランドのライバルであるロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(当時、フレッド・グッドウィンが率いてた)は、他の貸し手が避けてた質の悪い商業ビジネスを誘致するために激しく競争した。特にひどかったのは、積極的な販売文化の危険性を指摘したとして、2004年に規制リスク責任者を解任したことと、リーディング支店の酷い腐敗だった。そこの商業顧客は、返済できないローンを組むように誘導され、その後、銀行スタッフと関係のある偽の「ターンアラウンド・エキスパート」のサービスを受けるように誘導された。ビジネスは破壊され、銀行も顧客も多大な損失を被った。その事件は、あるマネージャーが11年の禁錮刑を言い渡され、他の5人が長期の禁錮刑を言い渡されるという結末を迎えた。でも、それで終わりじゃなかった。10年以上経った今でも、賠償請求は未解決のままなんだよね。

2008年には、スコットランドの銀行は、不良債権と無能な短期金融市場取引の影響で破綻した。イングランド銀行が流動性を提供し、政府が株式を取得して救済した。ゴードン・ブラウン首相は個人的に、HBOSをロイズ銀行が買収することを仲介した。ロイズ銀行は、リテールビジネスに注力してたため、比較的無事に危機を乗り越えていた。そのため、ロイズは勝利の直前に敗北を喫したんだよね。

規制当局であるプルーデンシャル規制庁(PRA)と金融行為監視機構(FCA)によるHBOSの破綻に関する報告書は、取締役会が「銀行、特に企業銀行に関する十分な経験と知識を持つ非常勤取締役を欠いていた」という見解を示した。それが事実だったかもしれないけど、業界での勤務経験がほとんどない、あるいは知識が乏しい非常勤取締役がいて、長年業界で働いてきた人たちの常識に疑問を投げかけることができるのも重要だと思う。思考と視点の多様性が必要であり、「多様な人材」の任命と同じではないってこと。

ハリファックスは今では、ロイズ・バンキング・グループの商号にすぎなくなってて、そのグループは、悲惨な買収からゆっくりと回復しつつあり、イギリス政府が保有してた株式は、最終的に2017年に小幅な利益で売却された。ハリファックスでの驚くほど成功した住宅ローンと貯蓄ビジネスの150年の歴史は、わずか10年で失敗した銀行として終わった。そして、1997年の上場時には7.32ポンドの価値があり、スコットランド銀行との合併時には8.34ポンドに達した株式は、今ではロイズの株式の0.6株に相当する。これは、2023年の価値で25ペンスに相当し、25年前の株式会社化時の株式価値の95%以上の損失に相当するんだよね。

金融の呪いっていうのは、利害関係者のニーズを満たすことよりも、金融指標の達成を優先すること。それが、株主を含むすべての利害関係者の長期的な利益を損なうことが多いんだよね。四半期ごとの利益管理も、M&A活動も、持続可能な競争優位性の源泉ではない。そして、この章と前の章で説明したすべての企業がかつて享受してた、持続可能な競争優位性こそが、ビジネスの成功の基盤であり、株主価値の唯一の長期的な源泉だってことなんだと思います。はい、今日はこんな感じで。

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