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Calculating...

えーっと、今回は、その、脳の研究についてちょっとお話しようかな。うちの研究室では主に、fMRI、あの機能的磁気共鳴画像法っていうのを使うんですね。これって、脳の血流の変化を測ることで、神経活動を間接的に知ろうっていう方法なんです。

人の体の細胞って、動くためには酸素が必要でしょ?で、血液がその酸素を運んでくれるわけ。だから、fMRIで脳の血流を測ると、どのニューロンが一番活発に動いているか、つまり、どこに一番血液が集まっているかがわかる、みたいな仕組み。

fMRIを使うと、人にいろんな刺激を与えたときに、脳の活動がどう変化するかを観察できるんです。例えば、パソコンの画面に映像を見せたり、ヘッドホンで音を聞かせたり、ボタンを押したり、ジョイスティックを使ったり、あるいは想像力を使ってもらったりね。

これのすごいところは、人に直接「今、何考えてるの?」って聞かなくても、脳の中で何が起こってるのかが、ある程度わかるってことなんです。いや、だって、聞いちゃうと、聞かれたこと自体が、観察しようとしてるプロセスを変えちゃう可能性があるじゃないですか? 例えば、「この決断、どれくらい感情的?」とか「今、無意識でやってる? それとも、一生懸命考えてる?」とかね。そういう質問は、ほんとに邪魔になることがある。

脳の活動を測ることで、人の感じ方とか好み、意図についての報告を補完できる情報が得られるんです。で、それらが合わさると、その人が将来どんな選択をするかっていう予測にも役立つってわけ。

この本では、fMRIを使ったいろんな実験を紹介していくんですが、いいところだけじゃなくて、もちろん限界もあるんですよ。脳科学の分野によっては、脳の特定の場所やネットワークの機能が、かなり詳しくわかっているところもあるんです。だから、そういう場所が活性化しているのを見ると、「あ、この人は今、こういうことを考えてるのかも」って推測できるわけ。例えば、視覚野が活動しているのを見れば、人がどんな映像を見ているのか、かなり正確に再構成できる、みたいな。

でもね、感覚的な経験を超えた、もっと複雑な思考、例えば、自分のアイデンティティとか、他人や状況をどう理解しているか、みたいなことになると、途端に難しくなるんです。脳スキャンだけでは、個人の具体的な考えまでは、正直、わからないんです。

だから、私たち神経科学者は、あくまで推測をしているにすぎないことが多いんですよ。例えば、特定の脳領域が活性化していれば、「あ、この人は今、報酬を感じているのかも」とか「自分や他人のことを考えているのかも」とか推測できるけど、確実ではないんです。なぜかって言うと、ほとんどの脳領域は、いろんな役割を担っているから。例えば、「あの人のことをどう思ってるんだろう?」とか、具体的に誰のことを考えているのか、まではわからない。一つの脳領域が、いろんな機能を持ってるからね。

あとね、この本で紹介する研究のほとんどに共通する、もう一つの大きな限界は、スキャンされた脳の持ち主が、人類のごく一部の人たちだってことなんです。fMRIって、高価な装置が必要で、だいたい大きな大学の研究施設にしか置いてないし、スキャン自体もお金がかかるんですよ。で、研究に参加してもらう人を探すのも、大学生が一番手っ取り早い。だから、初期の研究の多くは、白人で、西洋出身で、教育を受けた若い人が対象になっていることが多かったんです。宗教とか性的指向とか、他の重要な情報が記録されてなかったり、報告されてなかったりすることも多い。

さらに、この本で紹介する結果は、たくさんの人の脳を平均化したものなんです。私たちの脳は、それぞれ少しずつ違って動いているので、これらの研究結果は、あくまでスキャンされたグループの人々に共通する部分であって、すべての人に当てはまるわけではないんです。最近の研究では、この偏りを解消しようと努力しているけど、アイデンティティや文化、状況が違うと、結論がどう変わるのか、まだわからないことだらけなんです。

最後に、この分野は、他の社会科学や生物科学に比べると、まだすごく新しい分野なんです。人間の脳がどう動くのか、人によってどう違うのか、時間とともにどう変化するのか、どんどん新しいことがわかってきています。だから、今、この研究をするのは、すごくワクワクするけど、同時に、まだまだ学ぶことがたくさんあるってことでもあるんです。この本は、ある意味、今の時点での私たちの理解のスナップショットみたいなものですね。科学自体と同じように、私たちの理解も、これからどんどん成長していくはずです。このフロンティアに立って、地平線を見渡せる、すごくエキサイティングな時代だと思います。

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