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ええと、今回は「今の資本家って誰?」みたいな話を、ちょっとゆるく語ってみようかな。
昔、その、エンゲルスっていう人がね、「共産主義の原理」って本の中で、文明国では、すでに資本家たちが生活必需品とか、生産に必要な機械とか工場とか、そういうのをほとんど独占してるって言ってるんですよね。
で、昔の資本家っていうと、例えば、カーデルとかガーベットっていう人たちが、キャロン・ワークスっていう会社を立ち上げて、工場を作ったり、運営資金を出したりしてたらしいんですよ。戦略を決めたり、重要な決定をしたり、日々の運営を監督したり、全部自分たちでやってたんですって。あと、カーネギーとかロックフェラーとか、ヴァンダービルトみたいな、いわゆる「強盗男爵」みたいな人たちも、その流れを受け継いでたんだけど、彼らの会社って規模が大きくて、資金もいっぱい必要だったから、外部からの資金調達も結構してたみたい。証券市場とか銀行業界が発展して、それが可能になったっていうことなんですよね。
でもね、昔の資本家がやってた役割って、今は色んな人とかグループに分散されちゃってるんですよ。だから、今では誰でも「資本家」って言えるんじゃないかっていう話なんです。
例えば、現代のカーネギーとかロックフェラーを探すなら、ベゾスとかゲイツとかマスクみたいな人たちかな。彼らは、自分が作った会社の株っていう金融資産を持ってるけど、鉄鋼所とか油田とかパイプラインみたいな、具体的な生産資産は持ってないんですよね。もう会社自体がそれらを持ってるから。21世紀のビジネス界のすごい人たちは、会社をコントロールしてるだけってことなんですよね。
ベゾスとかゲイツとかマスクみたいな人たちは、「お金持ちランキング」で上位にいるし、みんなの関心を集めてるけど、ほとんどの大企業は、スーツを着たおじさんたちが管理してるんですよ。もうネクタイもしないかもしれないけど(笑)。彼らは、会社の官僚的な組織の中でキャリアを積んでいった人たちなんです。フォーチュンのランキングで上位10社に入ってる企業で、創業者がコントロールしてる会社って、一つもないんですよね。
例えば、Amazonだと、ベゾスからアンディ・ジャシーに社長が変わったんだけど、ジャシーは、Amazonができて間もない1997年に入社した人なんです。彼が作ったウェブサービス事業が、今ではAmazonの稼ぎ頭になってるんですよ。Microsoftでは、ゲイツからスティーブ・バルマーに社長が引き継がれたんだけど、うまくいかなかったんですよね。バルマーの後任になったサティア・ナデラは、大学を卒業してすぐMicrosoftに入社したんだけど、その頃にはもうMicrosoftは、しっかりした会社になってたんです。マスクは、TeslaとかSpaceXとか、X(旧Twitter)の経営にも関わってるけど、フォロワーからは、もうちょっと落ち着いてほしいって思われてるみたい(笑)。
優秀なプロの経営者のスキルって、創業者のひらめきとは違うんですよね。ナデラは、Microsoftにとってのスローンみたいな存在かもしれない。スローンは、大規模な組織に必要な官僚的な規律を導入した人なんです。スローンは、あまり表に出るタイプじゃなかったけど、ジャック・ウェルチは、初めて一般の人にも広く知られるようになったプロの経営者だったかも。でも、経営を仕事としてやってる人とか、CEOっていう肩書きを持ってる人は、イーロン・マスクのツイートを待ち構えてる人たちみたいな、熱狂的なファンはいないんですよね。ダグ・マクミロンは、世界で一番多くの従業員を抱える企業のトップだけど、Walmartの買い物客にも、Walmartの従業員にも、あんまり知られてないっていう。あと、フランソワーズ・ベタンクールはピアノを弾いてるけど、彼女が主要株主であるL’Oréalの経営は、ニコラ・イエロニムス(CEO)が担当してるんです。(私も調べるまで知らなかったけど。)
それから、フランソワーズ・ベタンクールとかアリス・ウォルトンみたいな人たちは、現代のレントシエ(不労所得者)って言えるかもしれない。昔のレントシエっていうと、ミスター・ダーシーとかエミリー・ブロンテみたいな、相続した資本からの利子とか配当で生活してて、仕事を探したり、働いたりしない人たちのことなんです。今では、そういう人たちは減っちゃったけど、ビル・ゲイツとかジェフ・ベゾスみたいな「リタイアした人」まで含めれば、そうとも言えないかもしれない。
20世紀初頭には、J.P.モルガンが、世界で一番価値のある会社であるUSスチールを設立したんですよね。モルガンは、世界的な金融業者だったし、誰もがイメージする「金融業者」そのものだったんです。彼が作った銀行は、今ではジェイミー・ダイモンが率いてるんだけど、ダイモンは、もともとサンディ・ウェイルの部下だったんです。でも、ウェイルは、ダイモンが自分の地位を狙ってるんじゃないかって心配になって、ダイモンを解雇しちゃったんです。ダイモンは、もっと小さな地方銀行に移って、そこがJ.P.モルガンに買収されて、すぐに全体のCEOになったっていう。
あと、ベンチャーキャピタルとかプライベートエクイティのリーダーもいますよね。例えば、クライナー・パーキンスのジョン・ドーアとか、セコイア・キャピタルのマイケル・モリッツみたいな人たち。ベンチャーキャピタルは、創業間もない会社に資金を提供するんだけど、その資金は、ほとんどの場合、会社の運営資金の赤字を埋めるために使われるんです。投資家たちは、IPO(新規株式公開)とか、大企業への売却で利益を得ようとしてるんです。
もっと規模が大きくなった会社は、ブラックストーンのスティーブ・シュワルツマンとか、KKRのヘンリー・クラビスみたいな、プライベートエクイティの標的になることがあります。プライベートエクイティは、すでに確立された会社を買収して、収益を改善してから、3~5年後に売却することを目指してるんです。
それから、プロロジスとかエアキャップ、エバーグリーンとかトリトンみたいな、現代のビジネスに必要な生産手段を提供する会社もあるんです。彼らの資金は、直接的にも間接的にも、小さな投資家の退職金とか貯蓄、銀行からの融資から来てるんです。
国際的な経済機関のトップもいますよね。クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)とか、クリスタリナ・ゲオルギエワ(国際通貨基金専務理事、元世界銀行)、ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ(世界貿易機関事務局長)、アジェイ・バンガ(世界銀行総裁)。このグループには、女性が多いですよね。世界銀行の総裁は、アメリカが任命することになってるけど。女性は、ビジネスとか金融よりも、政治の世界で早くから活躍してるんです。
インフルエンサーもいますよね。チャールズ・コークとか、ロバート・マーサーとか、ジョージ・ソロスみたいな人たち。彼らは、自分のお金を政治的な影響力に変えようとしてるんです。コークは、右派のシンクタンクとか学術研究に資金を提供してるし、マーサーとソロスは、ヘッジファンドで大金持ちになったんです。マーサーは、ケンブリッジ・アナリティカとの関わりで注目を集めたんだけど、ケンブリッジ・アナリティカは、Brexitのキャンペーンで不愉快な役割を果たしたんです。ソロスは、オープン・ソサエティ財団を通じて、共産主義後の東ヨーロッパで自由民主主義を推進したり、アメリカの左派的な活動に貢献したりしてるんです。
メディア界の大物もいますよね。アルフレッド・ハームズワース(デイリー・メールの発行者)とか、ウィリアム・ランドルフ・ハースト(オーソン・ウェルズの映画「市民ケーン」のモデル)は、大衆向けのジャーナリズムを切り開いて、その地位を政治的な影響力に利用しようとしたんです。今では、ルパート・マードックが支配する会社が、Fox Newsとかウォール・ストリート・ジャーナル、ロンドンのタイムズを発行してるし、ジェフ・ベゾスは、ワシントン・ポストを所有してるんです。
トレーダーもいますよね。ゴールドマン・サックスとか、ルネッサンス・テクノロジーズみたいな会社。現代の金融セクターの活動のほとんどは、新しいビジネスとか生産資本に資金を提供するんじゃなくて、既存の資産に対する請求権を作ったり、売買したりすることに関わってるんです。「投資銀行」っていう名前だけど、ゴールドマン・サックスみたいな会社は、二次市場での取引が主な収入源なんです。アバカスとかティンバーウルフの取引は、単純に投資家を騙すために作られたものだったけど、極端な例ですよね。でも、そういう活動が、社会にとってどれだけ価値があるかっていうと、疑問ですよね。ルネッサンスは、数学者のジム・シモンズと、コンピューター科学者のロバート・マーサーが設立した、アルゴリズム取引のファンドなんです。シタデルのケン・グリフィンは、世界で一番高級な住宅をいくつか所有してることで知られています。
資産運用会社もありますよね。ブラックロックとか、フィデリティとか、バンガードみたいな会社。ブラックロックは、そういう会社の中で一番大きくて、10兆ドル近い資産を運用してるんです。その中には、S&P500みたいな有名な株価指数と同じように、上場企業の株式を保有する、パッシブファンドへの投資も含まれてるんです。資産運用会社は、個別の株式を売買するアクティブ運用も提供してるし、上場してない創業間もない会社に資金を提供することもあるんです。
機関投資家もいますよね。ノルウェーの政府年金基金とか、カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)みたいなところ。1兆ドル以上の資産を持つノルウェーの政府年金基金は、世界最大の単独投資家なんです。160万人の会員を持つCalPERSは、アメリカ最大の年金制度なんです。こういう大きな資産保有者は、自分たちで資産運用をすることもあるけど、規模が小さい場合は、ブラックロックみたいな資産運用会社に委託することが多いんです。
結局、みんな資本家なの?
エアキャップとかプロロジスは、現代の生産手段の主要な所有者だけど、現代経済においては、そこまで重要な仲介業者じゃないんです。どちらの会社も、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場してるんです。プロロジスの株を一番多く持ってるのは、ブラックロックとか、ステート・ストリートとか、バンガードなんです。これらの資産運用会社は、株価指数と同じように株式を保有する、パッシブファンドの最大の提供者なんです。でも、これらの資本サービスプロバイダーの資金のほとんどは、株式からではなくて、銀行とか保険会社、年金基金からの融資から来てるんです。
株式とか預金、年金基金とか投資信託を通じて、長い仲介の連鎖をたどっていくと、結局は個人にたどり着くんです。ノルウェーの政府年金基金の受益者は、ノルウェーの人々だし、CalPERSは、カリフォルニア州の教師とか消防士、警察官のために投資してるんです。J.P.モルガン・チェースとかBNPパリバの預金者は、資本サービスプロバイダーに貸し出すための現金を提供してるんです。飛行機に乗ってる人が、自分が乗ってる飛行機に資金を提供してることを知ってる人はほとんどいないし、Amazonの倉庫が、中国南部から自分の家にガジェットを届けるための重要な仲介業者であることも知らないんですよね。
だから、私たちはみんな資本家なの?私の世代の人が、亡くなった親の遺品を整理してると、1984年に民営化されたブリティッシュ・テレコムの株券が出てくることがあるんです。そういう古い株券は、1980年代のイギリスの「株主民主主義」の幻想を物語ってるんですよね。直接株式を所有してる人は少ないし、アメリカ以外では特に少ないんだけど、株式の所有から恩恵を受けてる人はたくさんいるんです。今では、昔よりも富が広く分散されてるんです。でも、富が平等に分配されてるってわけじゃないんですよ。ただ、昔よりも多くの人が、何かしらの富を持ってるってことなんです。
富が広く分散された要因はいくつかあります。一つは、住宅市場です。第二次世界大戦後、持ち家がほとんどの先進国で当たり前になりました。それから、低金利とか住宅建設の規制によって、住宅価格が他の経済変数よりも上昇したんです。
もう一つは、「退職」っていう概念が生まれたことです。20世紀初頭のイギリスでは、出生時の平均寿命は、男性が44歳、女性が47歳だったんです。(5歳まで生き延びた人は、それぞれ58歳と60歳まで生きる可能性があったけど。)ほとんどの人は、今で言う退職年齢になる前に亡くなってたんです。それに、運良く定年まで生き延びたとしても、その後長く生きることはほとんどなかったんです。今では、65歳の人は、さらに20年生きることが予想されてるし、退職後の生活を支えるための公的年金とか私的年金の権利を積み立ててるんです。
それから、収入が増えたことで、その日暮らしだった人が、貯蓄をすることができるようになったんです。同時に、投資信託とかモバイルバンキングみたいな、金融イノベーションが、個人向けの金融を大きく変えたんです。昔は、ほとんどの労働者が週払いで給料をもらって、週単位で予算を立ててたけど、今では、スマートフォンがあれば、誰でも金融システムにアクセスできるし、色んな金融商品を利用できるんです。
イギリスでは、一番貧しい世帯でも、何かしらの富を持ってる可能性が高いんです。例えば、所得が下から2番目の10%の世帯は、7万ポンドの富を持ってて、そのうちの約20%は金融資産とか年金なんです。下から3番目の10%の世帯は、18万ポンドの富を持ってて、そのうちの35%は金融資産なんです。これは、年齢を考慮してないんです。うまくいけば、世帯の資産は、退職するまで増えていくんです。退職者の世帯の資産の中央値は、50万ポンドを超えてて、4分の1以上の世帯は、100万ポンド以上の資産を持ってるんです。富は平等に分配されてるわけじゃないけど、昔よりも広く分散されてるんです。現代の資本家を見たいなら、自分の家の鏡を見てみるといいかもしれませんね。