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えーと、今回はね、ある企業の会議で起きた、ちょっとこう、悲惨な出来事について話そうかなと思ってます。チャプター、まあ6って書いてあるんだけど、ええとね、ミスター・インデックスとマリオットでの集団感染っていうタイトルがついてますね。
2020年の2月26日、バイオジェンっていう製薬会社が、ボストン近郊のマリオット・ロングワーフホテルで、年次リーダーシップ会議を開いたんですよね。バイオジェンって、ケンブリッジに本社があるんだけど、従業員が8000人くらいいて、そのうち175人がボストンに招待されたわけ。世界中の拠点から集まってきて。会議は水曜日の朝に始まって、ハーバービュー・ボールルームっていう、海の景色がすごい綺麗な場所で朝食をとったんだって。
何ヶ月も会ってなかった同僚とか、電話やメールでしか話したことない人たちが、握手したり、ハグしたり、騒がしい中で相手の声を聞き取ろうと身を寄せ合ったりして。夜はね、数ブロック先のステートルームっていうイベントスペースで、夕食とカクテルが出されて、会社の業績が良かったから、みんな上機嫌だったみたい。
木曜日の午後には会議が終わって、参加者は空港に行ったり、ボストン周辺の自宅に帰ったり、バラバラに散っていったんだけど、振り返ってみると、会議の計画とか運営に関わった人はみんな、そもそも開くべきじゃなかったって気づいたんだよね。
でも、その時ってまだ2020年の2月の終わり頃で、SARS-CoV-2っていう、ちょっと言いづらい名前のウイルスが、まさに新しいものだったんですよね。前年の12月に中国の武漢で発生して、ヨーロッパとか他の地域にも、ちらほら出始めたばかり。
これが、本当に大変なことになるのかどうか、まだわからなかった時期。その20年くらい前にも、SARSっていう、COVIDと似たようなウイルスが中国で出てきて、保健当局をものすごく怖がらせたけど、結局は広範囲な被害を及ぼす前に消滅した、みたいなことがあったんで、今回もまた、同じようなことになるんじゃないかって思ってた人もいたみたい。ロックダウンとか、マスク義務化とか、ソーシャルディスタンスとか、そういうのが、まだ全然なかった時期だったんですよね。だから、バイオジェンの幹部チームも、楽観的なグループの中にいたみたい。
ただ、会議が終わった週末に、幹部の一人が体調を崩して、マサチューセッツ総合病院に行ったあたりから、ちょっと様子が変わってきたんですよね。そしたら、他の参加者も、次々と体調を崩し始めて、最終的には50人くらいが病気になっちゃったんだって。
月曜日には、バイオジェンの幹部はさすがにこれはヤバイって思って、会議の参加者全員に、もし体調が悪かったら、病院に行ってくださいっていうメールを送った。火曜日には、マサチューセッツ州の公衆衛生局に連絡して。木曜日には、ヨーロッパの従業員2人が陽性反応を示したんで、バイオジェンの従業員全員に、社内で感染が発生したことを知らせた。その夜、会社はボストンの従業員全員に、マサチューセッツ総合病院で検査を受けないように勧告したんだって。「バイオジェンの従業員が救急室を圧倒している」って。病院の警察官が、バイオジェンの人たちの入場を拒否するって警告してたらしい。
みんな必死で感染を食い止めようとしたんだけど、もう手遅れだったんだよね。マリオットの会議に参加した人の中には、そのままコプリープレイスにある別のマリオットホテルで行われた投資会議に行った人もいたんだって。そしたら、その会議の参加者も、体調を崩し始めた。
また、別の幹部は、ボストンからフロリダ州ナポリで行われたPwCっていうコンサルティング会社の会議に飛行機で行ったんだって。そこで、頭痛とか発熱とかの症状が出始めたんだけど、他の人に感染させてしまったんじゃないかって、心配になって。
さらに、バイオジェンはノースカロライナ州にも、ローリー郊外にあるリサーチトライアングルに1450人の従業員がいる施設があったんだよね。リサーチトライアングルの従業員も、ボストンから帰ってきて、月曜日から出勤して、体調を崩し始めた。いったい何人に感染させたんだろう?州の保健当局とバイオジェンとの間で、メールが飛び交い始めて、ノースカロライナの知事も巻き込まれていったらしい。
そこから、事態はさらに悪化して、マリオットの会議に参加した人の多くがCOVIDに感染してて、しかもその人たちが、すぐに飛行機に乗って、フロリダとかノースカロライナだけじゃなくて、世界中に散らばっていったっていうことがわかってきて、ダウンタウン・ボストンで起きた2日間の出来事が、まさに公衆衛生上の大惨事だったっていうことがわかったんだよね。
えーと、ローレンス・トラクトとか、ハーバード大学のラグビーチームの例って言うのが出てくるんだけど、これは、ソーシャルエンジニアリングの例なんだって。なんか、要するに、個人のニーズとグループのニーズをどうバランスさせるかっていう、難しい問題提起だね。今回の話は、バイオジェンの会議っていう、もっと難題なソーシャルエンジニアリングの話なんだって。伝染病がどうやって広がるかっていう、ちょっと不安になる現実の話。
コロナ禍の解説では、この問題はほとんど出てこなかったらしい。多分、触れにくい問題だったからか、みんなの前提がおかしかったからか。でも、次に同じようなことが起きたら、きっと、この問題が、一番重要な問題になると思うよ、って書いてある。
ボストン地域で最初のCOVID感染者が確認されたのは、1月31日だったんだって。マサチューセッツ大学に留学してた中国人学生が、流行の発生地である武漢からボストンに戻ってきた。検疫ルールとか、中国からの渡航禁止令が出る直前だった。ボストンに着いてから、COVIDの検査で陽性反応が出た。移動時間は30時間くらい。武漢から上海、上海からパリ、パリからボストンのローガン空港。
まだパンデミックの初期の頃で、1ヶ月後には当たり前になるような予防措置は、誰もとってなかったんだよね。その学生はローガン空港に到着して、入国審査の列に並んで、ボストンにある自分のアパートまで行った。ルームメイトがいたのかな?マスクとかしてなかっただろうし、ソーシャルディスタンスも守ってなかっただろうし。これは、まさに公衆衛生上の大惨事になるんじゃないかって思ったらしいんだけど、実際には誰にも感染させなかったんだって。
むしろ、この出来事は、本当に何事もなく終わったんで、市の公衆衛生委員会の幹部は、わざわざ「ボストン市民に普段と違うことを求めることはありません」「一般市民へのリスクは低いままです」って言ったんだって。
5週間後、ケンブリッジのブロード研究所の科学者グループが、COVID検査を処理する最初の診断ラボを作ったんだって。それで、診断されたすべての患者からCOVIDウイルスの遺伝子シグネチャーを分析して、ボストン地域でのCOVIDの移動経路を示す巨大なロードマップを作成できたらしい。最初の数ヶ月で、なんと120回以上も、誰かが新しいCOVIDの株をボストン地域に持ち込んだことがわかったんだけど、そのうち広がったのはごく一部だったんだって。しかも、広まったとしても、ほとんどの場合はそこで止まってしまった。
最悪の感染拡大の一つは、バイオジェンの会議から約1ヶ月後に、地元の介護施設で発生した。施設の入居者97人全員がCOVIDに感染して、24人が亡くなった。スタッフの3分の1も病気になった。施設は荒廃した。でも、その株が、介護施設以外に被害を及ぼしたかって言うと、そうでもなかったんだって。たくさんの人が出入りする場所だったにもかかわらず、介護施設のフロア全体を壊滅させるほど感染力と致死率の高い株が、外の世界にはほとんど影響を与えなかった。広まったけど、感染爆発はしなかったんだよね。
その数ヶ月間のボストンで、感染爆発と言えるのは、マリオット・ロングワーフでのバイオジェンの会議だけだった。
ブロード研究所のCOVID研究チームの一員だった感染症専門医のジェイコブ・ルミュっていう人が、「最初の症例のつながりに関する情報が出てきて、色々な情報を組み合わせて考え始めたら、初期の症例の多くが互いにつながっていて、この会議につながっているっていう特徴が、目の前に突きつけられた」って言ってたらしい。
マリオットの会議から発生した症例は、C2416Tっていう独特の遺伝子シグネチャーを持っていた。この変異は、バイオジェンの会議までアメリカでは確認されてなくて、フランスの高齢者2人からしか確認されてなかったんだって。だから、ルミュと同僚は、C2416T、つまりバイオジェンの株の経路をたどるだけで、そのイベントがどれだけの影響を与えたのかを知ることができた。
「研究結果を発表したとき、ボストン・グローブが電話をかけてきて、『それは本当に興味深いですね』って言ったんです」って、ルミュは言ってたらしい。「でも、この影響を受ける人は何人くらいいるんでしょうか?って聞かれたんで、『うーん、わからないけど、すごく多いと思います』って答えたんです。そしたら、『すごく多いって、どれくらいですか?』って聞かれたんで、『うーん、すごく多いです…』って答えたんです。社内の見積もりを共有したら、次の日にはボストン・グローブの1面で『科学者たちは、ビジネス会議で2万人が感染したと言っている』みたいな記事が出てました」って。
結局、その見積もりは、かなり控えめだったみたい。世界中の科学者が、流通しているCOVID株の遺伝子シグネチャーを報告するにつれて、バイオジェンウイルスの感染拡大マップは、どんどん拡大していった。C2416Tは、アメリカの29の州、オーストラリア、スウェーデン、スロバキアのような遠隔地にも広がった。
「世界中から配列がアップロードされてきて、このシグネチャーを確認できました。最初の見積もりは、すごく高く見えたけど、実際にはすごく低かったんです。おそらく、数十万人が、このイベントから始まった感染連鎖の結果として感染したでしょう」って言ってたらしい。
最終的な見積もりでは、バイオジェンの会議が、30万人以上の感染につながった。いったいどうしてこんなことになったんだろう?
ルミュは「一人によって持ち込まれたと考えています」って言ってた。
たった一つの会議から30万人以上の感染が発生して、しかもたった一人の人に遡ることができる。その一人はいったい何が特別だったんだろう?
これまで、伝染病の2つの要素を見てきたよね。一つ目は、上層構造。上層構造は、地表で起こっていることすべてに影を落とす。2つ目は、グループの構成。グループ内の人々の組み合わせによって、グループが感染爆発するかどうかが決まる。ポプラグローブの自殺流行では、どちらの要素も当てはまってた。ポプラグローブには、独自の極端な成果主義っていう上層構造があって、それが悲惨な副作用をもたらした。そして、グループの構成も間違っていた。単一文化だった。学校の規範に圧倒された生徒が避難できるような、別のアイデンティティが必要だった。
でも、3つ目の要素があったんだって。ポプラグローブを研究していた社会学者の一人であるセス・アブルティンが言ってたことを思い出してほしい。少なくとも4つのクラスターのうち3つには、ポプラグローブの若者の理想を体現している、すごく目立つ地位の高い生徒がいた。自殺した若者の多くは、完璧に見えたけど、いなくなってしまった。「もし、彼らがこの状況で生き残れないなら、どうして私が生き残れるんだろう?」みたいな感じだったんだって。
ポプラグローブの流行の原動力の一つは、自殺のきっかけとなった生徒が特別な地位を持っていたこと。学校のヒエラルキーの中で重要な位置を占めていた。このアイデアについては、「転換点」っていう本でも書いたけど。社会問題の多くは、非常に非対称的で、少数の人がすべての「仕事」をしている。しかも、本当にごくわずかな人たち。
例えば、昔、ドナルド・ステッドマンっていうすごい人に会いに行ったことがある。デンバー大学の化学者で、素晴らしい発明家だったんだって。彼の発明の一つに、赤外線を使って、車が高速道路を走行中に排出するガスを瞬時に測定・分析する装置があった。デンバーに行って彼に会って、I-25のオフランプまで行ったんだって。ステッドマンは、そこで、自作の装置を大きな電子掲示板に接続してた。汚染防止装置が正常に機能している車が通過すると、掲示板に「GOOD」って表示されて、許容排出量を超える車が通過すると、「POOR」って表示されるんだって。
1時間くらい見てたらしいんだけど、「POOR」の表示は、本当に稀だったんだって。でも、ステッドマンによると、ごくわずかな車が、デンバーの大気汚染の主な原因だったんだって。理由はどうであれ、年式が古かったり、修理が悪かったり、所有者が意図的に改造したりして、ごくわずかな自動車が、平均の100倍もの一酸化炭素を排出していた。
ステッドマンが言うには、「車が15年落ちだったとしましょう。車は古くなればなるほど、故障する可能性が高くなりますよね。人間と同じです。故障っていうのは、コンピューターが動かなくなったり、燃料噴射装置が開いたままになったり、触媒が壊れたり、色々な機械的な故障のことです。これらの故障モードが、高排出につながることは珍しくありません。データベースには、1マイルあたり70グラムの炭化水素を排出する車が少なくとも1台あります。つまり、その車の排気ガスで、ホンダシビックを走らせることができるくらいです。古い車だけじゃなくて、タクシーのような走行距離が多い新しい車もそうです。」って言ってたらしい。
2006年のデンバーでは、道路を走る車の5%が、自動車による汚染の55%を排出していた。少数の法則。本当にごくわずかな人が、大きな問題を引き起こしているんだよね。
ステッドマンは、自動車汚染の非対称性を理解すれば、既存の排ガス検査システムは意味がないことがわかると主張した。彼は言うには、その場での排ガス検査は、ごくわずかな違反者を見つけて修正するのに役立たない。高性能のスポーツカーを持っている人は、検査の日にきれいなエンジンに交換したり、排ガス検査のない遠い町で車を登録したり、高速道路を運転した直後に検査場に行って、汚れたエンジンが綺麗に見えるようにしたりする。汚れたエンジンは変動が大きく、短時間だけきれいに燃焼することがあるので、ランダムにテストに合格してしまう人もいる。一方、デンバーの何十万人ものドライバーは、毎年、排ガスセンターに行って、仕事の時間を割いて、列に並んで、25ドルを払って検査を受ける必要があったけど、ほとんどの人は必要なかった。
ステッドマンのアイデアは、自分の装置をデンバー周辺に設置して、違反した人を警察官が取り締まるべきだってこと。彼の路上排ガスチェッカーを数台設置すれば、1日に3万台の車を検査できて、数年で、デンバー地域での排出量を35〜40%削減できると推定していた。
ステッドマンの先駆的な研究以来、他の研究者も世界中で同様のテストを実施してきた。そして、結果は常に同じ。いつでも、車両の約10%が、自動車による大気汚染の半分以上を占めている。汚染車の分布は、ロサンゼルスのドライバーに関するある研究で使用された言い方を借りれば、「極端に偏っている」。
別の研究では、イタリアの研究者グループが、ローマの車の10%が電気自動車になった場合、ローマの大気質がどれだけ改善されるかを計算した。もちろん、大きな違いがあった。でも、さらに別の計算をした。汚染車の上位1%だけに電気自動車を義務付けたらどうなるのか?汚染は同じ量だけ減少する。
ドナルド・ステッドマンが魔法のような装置を発明してから40年近く経った今、ほとんどの人がドナルド・ステッドマンに同意している。ステッドマンが路上検査場を設置してから、デンバーでは何が起きたんだろう?何も起きてないんだって。コロラド州は、いまだにほとんどのドライバーに定期的な排ガス検査を受けさせてて、2000年代にはかなり良好だったデンバーの大気質は、過去10年間で悪化してるんだって。
都市の大気汚染は、少数の人々が引き起こしている問題の典型例だよね。でも、みんなが引き起こしている問題のように振る舞ってる。誰も非対称性に基づいて行動しようとしない。一部の悪質な汚染者を特定すると、デンバーの大気質を心配している人の仕事が難しくなる可能性があるから。取り締まられた人が、貧しい人だった場合はどうなるんだろう?車の修理費を払えない場合はどうなるんだろう?従わない場合は車を没収するのか?警察が汚染防止法を施行するように求められることに反発した場合はどうなるんだろう?環境保護団体が独自に行動して、ステッドマンの箱を購入して、通行人に恥をかかせ始めたらどうなるんだろう?
問題はみんなのものだっていう立場から、問題は一部の人によって引き起こされているっていう立場に移行するのは、本当に難しい。そして、その難しさに圧倒されて、汚れた空気を吸うことを選んでるみたい。
この章では、社会工学の試みが難しい問題に直面する例を見てきたけど、たとえば、黒人を助けるために作られたコミュニティを救うためには、黒人を追い出すしかない場合はどうするのか?ハーバード大学のラグビーチームは、機関が少数の特権を維持するために密かに数字を操作した場合にどうするのか?っていう、社会工学の別の問題例だった。
でも、ここでは、今後の社会が直面するもっと困難な問題を説明したい。テクノロジーによって、デンバーの道路だけでなく、パンデミックの初期段階にある大きなホテルの会議室など、あらゆる場所で、特別な少数者を特定できるようになるだろう。
その情報をどうするのか?
ウイルスと伝染病は、さまざまなグループによって、さまざまな視点から研究されている。公衆衛生分野の人々は、病気が特定の集団に与える影響に関心がある。ウイルス学者は、実際の感染性物質の特性に関心がある。免疫学者は、体が異物に対してどのように反応するかに関心がある。他にも専門分野が細分化されていって、何万もの学術雑誌が存在する。科学がどれだけ細分化されているかがわかるよね。それぞれの分野が互いにコミュニケーションを取ったり、論文を読んだりすることもあるけど、ほとんどの場合、そうではなくて、ある分野で起こっていることが、別の分野の研究者には気づかれないことがある。COVIDの場合、エアロゾルを研究している科学者の小さなグループが、まさにそうだった。
エアロゾルは、空気中に浮遊する微粒子。何十億個も存在する。自然のものもあれば、人工のものもある。エアロゾル科学者は、エンジニアとか化学者のことが多い。ドナルド・ステッドマンもエアロゾル科学者だった。彼は、車の排気ガスから出る微粒子を測定することに関心があった。これは、典型的なエアロゾル研究だよね。他に、フライパンでベーコンを調理するときに、漂ってくる香りは何でできているのか?フライパンから立ち上るすべての粒子は有害なのか?粒子の大きさはどれくらいなのか?どこに行くのか?換気扇を回したら、換気扇はちゃんと機能しているのか?みたいなことも研究する。
この分野の主要な雑誌は、Aerosol Science and Technologyっていう雑誌らしい。マリオットでの感染拡大から1ヶ月後、雑誌は、世界中で猛威を振るっている謎の伝染病について、数人の主要なエアロゾル科学者に意見を求めた。
彼らの論文は、2020年4月初旬に、論文「湿度、密度、吸気効率の補正により、北西インドガンジス平野の郊外サイトでのフィールドキャリブレーション中に低コストセンサーの精度が向上する」という記事と一緒に掲載された。論文のタイトルは「コロナウイルスパンデミックとエアロゾル:COVID-19は呼気粒子を介して伝染するのか?」エアロゾル関係者以外で読んだ人はほとんどいなかったと思うけど、この論文は、COVIDの流行を正確に記述した最初の主要な科学出版物の一つだった。
論文の発起人は、カリフォルニア大学デービス校で教鞭をとるウィリアム・リステンパートっていう人。化学エンジニアの訓練を受けたリステンパートは、2008年に偶然から人間の病気の研究を始めたんだって。「かなり著名な疫学者が、インフルエンザのモルモット間の空気感染に関する論文を発表してるのを見つけたんです」って。論文は面白かったけど、不完全だと思ったらしい。リステンパート曰く、疫学者は問題を全体的に分析しているけど、エアロゾル科学者なら当然するはずの質問をしていなかった。「つまり、流体があるのか?速度があるのか?どちらの方向に進んでいるのか?みたいなことです」って。
つまり、疫学者はモルモットが近接していなくてもインフルエンザを感染させることができるかどうかに関心があったけど、どうやって感染するのかを知らなかった。エアロゾル科学者にとっては、どうやって感染するのかが重要な部分だった。だから、リステンパートは、化学エンジニアの視点から人間の病気の研究を始めた。話したり、呼吸したり、くしゃみをしたりすると、空気が吐き出される。その空気には何が含まれているのか?
「声帯を見たことがありますか?調べてみるまで、私は知りませんでした」って彼は言ってた。「でも、喉頭科医は全員、喉頭鏡を使っています。つまり、光ファイバーケーブルを鼻から入れて、ここから入れて、声帯を見ることができるんです」。
彼は、喉頭鏡で撮影した自分の声帯の写真を見せてくれた。声帯は喉頭の中にあって、ポケットドアのように開閉する2枚の組織なんだって。
「声帯が毎回閉じるときは、本当に魅力的です。話しているときは…。私の声は低いので、約110ヘルツです。つまり、1秒間に110回、声帯がぶつかり合っているんです」。
声帯が開くたびに、小さな液体の紐が形成される。リステンパートが見せてくれた写真では、その紐は、2枚のポケットドアの間の開口部を横切って伸びる小さな液体の橋のように見えた。
「そして、その橋が壊れると、小さな液滴が形成されます」って彼は言ってた。
息を吐き出すと、口から出てくるのは唾液の小さな液滴。シロップ状の液体が入ったボトルからシャボン玉を吹くことを想像してみて。ボトルにワンドを突っ込んで、片方の端に液体の薄い膜を張る。それを吹くと、シャボン玉があちこちに飛んでいく。口の中で起こっていることは、まさにそれと同じだけど、シャボン玉の数は数十個ではなくて、数百万個で、しかも顕微鏡で見ないと見えないほど小さいんだって。
COVIDウイルスが出現して、Aerosol Science and Technologyは、リステンパートと同僚3人にコメントを求めた。彼らの最初の質問は、液滴について何を知っているかってことだった。パンデミックの初期に言われてたことを覚えているかな?2020年3月28日、世界保健機関は、ソーシャルメディアで次のように投稿した。
事実:COVID-19は空気感染しません。
コロナウイルスは、主に感染者が咳、くしゃみ、または話すときに発生する飛沫を介して伝染します。
自分を守るために:
-他の人から1mの距離を保つ
-表面を頻繁に消毒する
-手洗い/手洗い
-触れないでください
WHOがウイルスは空気感染しないって言ったのは、鼻や口から出てくる飛沫が重すぎて、空気中に浮遊できないって意味だった。だから、感染者から距離を置くことで、身を守ることができた。飛沫は、くしゃみや咳の力で届く範囲にしか届かない。メッセージは「物理的な接触を避けてください」だった。
でも、エアロゾル科学者は、それが理解できなかった。声帯が開閉するたびに、液体の橋の中にあるウイルス粒子が小さなシャボン玉に変わるなら、咳やくしゃみにだけ焦点を当てるのは愚かだ。本当に問題なのは、会話なんだ。10分間の会話で吐き出す粒子は、2〜3回のくしゃみよりもはるかに多い。リステンパートは言う。
「医師やみんなは、咳やくしゃみに注目してきました。それは、大きな出来事だからです。何かが飛び散るのが見える…。そして、見えるものがあると、心配になるからです。でも、会話はどこにでもあります。私たちは一日中、みんなと話しているでしょう?」って。
そして、会話から出てくる小さなシャボン玉が、重すぎて空気中に浮遊できないと考えるべきじゃない。リステンパートと同僚3人は、COVIDが、自分たちが研究してきたエアロゾルと同じ種類に属すると考えた。シャボン玉は軽い。タバコの煙のように漂う。部屋の中で最長1時間も浮遊し続けることができる。吐き出した人が部屋を出た後でも。
「呼吸や会話中に放出される呼気粒子の数を考えると」ってリステンパートと同僚は論文に書いた。「COVID-19の感染力の高さを考えると、無症状の感染者との対面会話は、接触に気を付けていても、COVID-19を伝染させるのに十分な可能性があるという重要な仮説を立てることができます。」
バイオジェンの症例は、最初に調査した公衆衛生の研究者にとって謎だった。直接接触で広がるウイルスが、どうして部屋全体に感染するのか理解できなかったから。「これが、私たちが理解できなかったことでした」ってブロード研究所のルミュは言った。「この2日間の会議で、何百人もの人が感染しました。誰かに咳をかけるのは社会的に気まずいことなので、どうして一人が何百人もの人に咳をかけることができたのでしょうか?」って。
COVIDが空気感染するなら、すべて納得できる。COVIDを伝染させるには、呼吸して話すだけでよかった。バイオジェンの症例の中心人物は、マリオットの大きくて蒸し暑い会議室でスピーチをしていただけの人。「声が大きければ大きいほど」ってリステンパートと同僚は書いた。「より多くのエアロゾル粒子が生成されます」。COVIDに感染している人が、会議全体の前で立ち上がって、40分間も致命的なウイルスが詰まったエアロゾル化された粒子を放出する。これで、スーパースプレッダーイベントを説明できた?
本当にそうだろうか?
ウイルスが、密閉された部屋で話したり呼吸したりするだけで広がるなら、どうしてマリオットの会議のような事例が何千件も発生しなかったんだろう?バイオジェンの感染拡大事例を知っているのは、それが特別なイベントだったから。
どうして特別だったんだろう?
1970年代初頭、ニューヨーク州ロチェスター郊外の小学校で、麻疹の感染が起きた。60人の子供が病気になったため、地元の保健当局は調査を開始せざるを得なかった。彼らはカルテを収集し、学校の地図を分析し、換気システムの仕組みを計算し、誰がバスで帰宅し、誰がそうでないのか、そして感染した子供が教室のどこに座っているのかを調べた。それから、ウイルスの経路を再構築できた。感染は2つの波でやってきた。最初の波で28人の生徒が感染し、その28人が最終的にさらに31人の子供にウイルスを伝染させた。そこまでは普通のこと。他の人から麻疹を感染する。感染が治るまで、親は子供を家に置いておく。遅かれ早かれ、感染は消滅する。
でも、彼らは奇妙なことに気づいた。最初の波で感染した28人の小学生がどのように病気になったかに関係があった。一人の女の子からだった。2年生の女の子。彼女の症例は理解できなかった。調査官は、感染が起こりやすい場所の一つだと考えていたバスで登校していなかった。また、自分の教室の生徒だけに感染させたわけでもなかった。それは、感染性ウイルスが広がる可能性が高いシナリオだ。代わりに、14の異なる教室の子供たちに感染させた。疫学者が麻疹などの病気の広がりを理解するために使用するモデルでは、すべての感染者がウイルスを他の人に感染させる可能性はほぼ同じだと仮定されていた。しかし、この小さな女の子は、その仮定をあざ笑った。最初の波を理解する唯一の方法は、彼女が普通の麻疹患者よりも10倍多くのウイルス粒子を吐き出したと仮定することだった。
「発端となった症例と、その後の症例の間で、感染性が1桁違う可能性があることに興味をそそられています」と調査官は書いている。
興味をそそられているっていうのは、控えめな表現だったって言っていいだろうね。
一部の人々は、他の人に感染させることに長けている可能性があるっていう考えが、科学の世界で定着するまでには時間がかかった。長年、医学文献には散発的な報告があった。疫学におけるUFO目撃情報みたいなもの。でも、誰もこのような症例をどう扱っていいのかわからなかった。これらの症例は、伝染病がどのように機能するかに関する既存のモデルに当てはまらなかった。スーパースプレッダーっていう用語が一般的に使われるようになったのは1970年代の終わり頃だったけど、その概念は依然として理論的なものだった。未解決の疑問が多すぎた。例えば、身長195センチ、体重125キロの男性は、50キロの女性よりも呼吸器系ウイルスを拡散する上で脅威になることは誰もが理解していた。彼の肺ははるかに大きかったから!でも、身長と体重だけでは、2年生の女の子がクラスメートよりも10倍多くの麻疹粒子を吐き出していることを説明できなかった。
ロチェスターの医師たちは困惑した。彼らはスーパースプレッダーが誰であるかを知っていたけど、何が彼女を他の人と違うようにしたのかを理解できなかった。
そこで、エアロゾル科学者の登場。
エアロゾルの世界で最も重要なツールの一つは、空力粒子サイザー、またはAPSマシン。ファンネルから供給される箱。それは、車の排気量を測定するためにドナルド・ステッドマンが発明した魔法の箱の人間版。息を吹き込むと、口から出てくる空気を一連のレーザーに通して、呼吸中のすべてのエアロゾル粒子の数とサイズを測定する。ウィリアム・リステンパートの研究室は48人のボランティアを集めて、APSに息を吹き込ませた。被験者は母音を発音した。彼らは声の高さと低さを変えた。彼らは「発声」を行った。そして、研究者たちは、長年にわたってすべてのUFO目撃情報が示唆していたことを確認した。サンプルの中の少数のグループは、規格外だった。
「それが、私たちがスーパーエミッターと呼んでいるものです」とリステンパートは言った。「一部の人々は、同じ音量で、約1桁多くのエアロゾルを放出しました」と彼は続けた。「私たちは全く知りませんでした。最初に戻ってやり直さなければならないとしたら、人々によってサイズ分布が違うと仮説を立てたでしょう。でも、人々の間で1桁違うとは思いませんでした。」
別の主要なエアロゾル科学者であるハーバード大学のデービッド・エドワーズも、同じパターンを見つけた。彼は会話に焦点を当てなかった。彼はノースカロライナ州アッシュビルとミシガン州グランドラピッズに行って、それぞれの都市でグループの呼吸を測定した。彼は最終的に194人をテストした。圧倒的多数は低拡散者だった。誰にも感染させることは困難だろう。でも、エドワーズが高生産者と呼んだ34人がいた。その34人の中で、18人が超高拡散者だった。そして、その超高拡散者のエリートグループの中に、平均して1リットルあたり3545個という驚異的な粒子を吐き出した人がいた。低拡散者の最大のグループよりも20倍以上多かった。
ついに、パンデミックの終わりに近づいて、決定的な証拠が出てきた。英国の研究者は、「チャレンジ研究」の一環として、36人の自発的なボランティアに意図的にCOVIDを感染させた。彼らは皆若くて健康だった。彼らは皆、同じ用量で、同じ条件で、まったく同じ株にさらされた。全員が病院に隔離され、研究者たちは医学的な顕微鏡で、すべての症状とバイタルサインを監視・検査できた。リステンパートとエドワーズは、ウイルスに感染していない普通の人々を測定していた。それとは対照的に、英国の研究は、COVID感染者に何が起こったかを調べた最初の研究だった。そして、彼らは何を見つけた?感染したボランティアのグループで検出されたすべてのCOVIDウイルス粒子の86%は、2人から来ていた。
空気感染するウイルスは、少数の法則に従って機能するわけじゃない。それは、極めて極めて極めて少数の法則に従って機能する。
エアロゾル科学者たちが特定したのは、誰にでも、時々、偶然に起こるものではなかった。「理由は不明だけど、特定の個人は『会話スーパーエミッター』であり、平均よりも1桁多くのエアロゾル粒子を放出します」とリステンパートと同僚は、彼らのAerosol Science and Technologyのマニフェストに書いた。つまり、ロチェスターの女の子のように、特定の種類の個人は、遺伝的な性質の一部として、大量のエアロゾル粒子を生成する。
ウィリアム・リステンパートは、スーパースプレッダーは、何らかの理由で唾液に異常な特性を持つ人である可能性があると考えている。彼らの唾液は、通常よりも弾力性と粘度が高く、濃くて粘着性がある。だから、彼らが声帯の液体の橋を突き破るときに、より多くのエアロゾルが生成される。
デービッド・エドワーズは、少なくとも呼吸によって放出される粒子に関しては、存在する個々の違いは、水分補給と同じくらい単純なものによって増幅される可能性があると考えている。
「あなたの上気道は洗車場のようなもので、あなたの上気道に入ってくる空気は車のようなものです」と彼は説明する。
洗車場が適切に機能している場合、あなたが呼吸する空気中の小さな破片の大部分は洗い流される。
「水分補給をしっかり行うと、あなたの上気道は常に病原体を捕獲し、20分から1時間以内に腸に移動させて飲み込み、それで排除されます」とエドワーズは言った。「でも、脱水状態になると、洗車場に水がありません」。洗車場が壊れると、ウイルス粒子のようなものは上気道の浄化作用を通り抜けて肺に入る。だから、脱水状態になると風邪やインフルエンザ、COVIDにかかりやすくなる。息を吐き出すと、ウイルス粒子が戻ってきて、今度はウイルスを感染させる可能性が高くなる。粒子は乾燥した気道に当たり、ビーチに打ち寄せる大きな波のように、濃縮された泡状の噴霧に分解される。それが、1リットルあたり3545個の粒子を生成する理由。
それで、誰が脱水状態になりやすいんだろう?エドワーズが呼吸データを調べたところ、エアロゾルの高生産の最大の予測因子は、年齢とBMI(ボディマス指数)だった。
年齢が高くなるほど、脱水状態になりやすい。ボディマスが大きいほど、脱水状態になりやすい。そして、COVID-19に感染すると、脱水状態になることが多い。だから、これらの3つのグループの人々に共通の分母は、脱水状態。
これらの説明のうち、どれが正しいのかはまだわかってない。でも、いつか科学者たちがそのことを知るようになり、その発見は、ドナルド・ステッドマンの路上排ガス計画で直面したジレンマの産業規模のバージョンを作り出すことは確実みたい。この知識を使って将来の伝染病の経過を制御しようとする誘惑は、ローレンス・トラクトやハーバード大学の場合と同じくらい大きいだろう。今回は、その結果として生じる複雑さはさらに悪化する。
年齢と肥満が、スーパースプレッダーの2つの最大の予測因子だとしたらどうだろう?それは、パンデミックの最中に、乗客が飛行機で太った人の隣に座ることを拒否する