Chapter Content

Calculating...

えー、なんだっけ、第八章か。えっとね、まずはね、ロジャー・ペンローズさんの言葉から始まるんだよね。「私たちの時代より前の…悠久の未来は…私たちのビッグバンだった」っていう、ちょっと難しいんだけど、すごいロマンのある言葉で。

で、ペンローズさんが2020年にノーベル賞を受賞した時に、「クレイジーな理論」って言ってたのがあってね。それはビッグバン以前にも、今の宇宙とそっくりな宇宙があったっていうの。さらにその前にも、またその前にも、ずーっと無限に続いてるっていう考え方なんだよね。

このペンローズさんの理論って、いろんな人に響くと思うんだけど、例えば、ボツワナのジュ・/ホアンシ族の人たちは、時間を始まりも終わりもない、リズムのあるサイクルとして捉えてるんだよね。季節の移り変わりとか、太陽とか星とか月の動きとか、そういう自然のリズムに合わせて生活してるんだよね。人類学者のジェームズ・スズマンさんが言うには、そういうリズムのある時間の中では、生活のペースは自然のサイクルで決まるから、人間の力で早くしたり遅くしたりできないんだって。太陽が昇ったり沈んだりする時間を変えられないのと同じだよね。

そして、それぞれのサイクルの中で、時間の流れは一定じゃなくて、暇な時はゆっくり、忙しい時は早く感じるんだよね。時間を測るものが何もなくて、自分の考え方とか世界の捉え方で時間のスピードが変わるっていう感覚、わかるかな?なんか、あっという間に過ぎる時もあれば、すごく長く感じる時もある、みたいな。そういう時間の伸び縮みを、均等なペースで区切ることはできないんだよね。リズムのある時間の中で生きてると、時間が仕事のやり方を決めるんじゃなくて、仕事のやり方が時間の感じ方を決めるんだって。

面白いことに、この時間の感じ方のゆらぎが、私たちの心と体のペースを決めてるかもしれないんだよね。ハーバード大学の研究者たちが、興味深い実験をしたの。33人の健康な人に、お灸治療でできた軽い傷の治り具合を、時間の感じ方が違う3つの環境で測ったんだって。時計を半分遅くしたり、2倍速くしたり、普通のスピードで動かしたりして、それぞれの環境で傷が治るスピードを比べたの。そしたら、なんと、時間が早く過ぎてると思った方が、傷の治りが早かったんだって!びっくりだよね。

故マーシャル・サーリンズさんの『石器時代の経済学』っていう本には、世界各地の狩猟採集民の生活の記録がまとめられててね。そこには、彼らが仕事と休息をリズムのあるパターンで繰り返している様子が描かれてるんだ。一日の中で一生懸命働く時間と、ゆったり過ごす時間が交互にあって、狩りをした日は、そのあと何日か休むんだって。みんなが仕事を終えたら、余った時間を無理に何かで埋める必要もないんだよね。

狩猟採集民の生活は、いつも不安とか困難がつきものだけど、長時間無理して働くことはほとんどなくて、集中的に働く時間も短いんだって。チェコの文化人類学者、レオポルド・ポスピジルさんが、パプアのカプアク族について調査した結果をサーリンズさんの本で紹介してるんだけど、「労働日は一日おきで、労働日の翌日は『失われた力と健康を取り戻す』ために休むことになっている」んだって。もし、どうしても長時間労働が必要な場合は、「数日間休んで、『休むはずだった日』を補償する」んだって。

また、民族学者のマルティン・グジンデさんが、1920年代の南米のティエラ・デル・フエゴに住むヤーマナ族について記録してるんだけど、「ヤーマナ族は、ヨーロッパの農家や雇用主が期待するような、毎日休まずにハードワークをすることはできない。彼らの仕事は、断続的で、ある一定の時間だけものすごいエネルギーを発揮する。その後は、いつ終わるとも知れない長い休息を必要とし、何もしないでゴロゴロしている」んだって。

サーリンズさんの本に載ってるほとんどの記録が、激しい労働の後に軽い労働や休息が続く、リズムのある労働パターンについて語ってるんだよね。まるでパワーローみたいだよね。パワーローっていうのは、あるものが変化すると、別のものがそれに合わせて変化するっていう数学的な関係のこと。この場合だと、労働の強度が増すと、労働時間が減るから、ほとんどの時間を軽い労働に費やすことになるんだよね。グラフにすると、こんな感じになる…(グラフのイメージ)。

この働き方は、場所とか気候とか、外部からのプレッシャーに関係なく、いろんな狩猟採集民に共通してるみたいなんだよね。サーリンズさんやスズマンさんの研究が示すように、現代でも生き残っている狩猟採集民は、生まれつきそういう働き方をする傾向があるみたいなんだよね。

2013年に、アメリカの研究グループが、タンザニア北部に住むハッザ族の狩猟採集民44人にGPSをつけて、普段通りに食料を探してもらったんだって。そしたら、なんと、彼らの食料探しの約半分が、レヴィ歩行っていうパターンに従ってたんだって。レヴィ歩行っていうのは、短い距離を歩くことが多くて、長い距離を歩くことが少ないっていうパワーローのパターン。さらに面白いことに、この歩き方は、周りの環境に左右されないみたいなんだよね。つまり、ハッザ族の人たちは、必要に迫られてパワーローのパターンで歩いてるんじゃなくて、自分たちでそうすることを選んでるんだって。ハッザ族だけじゃなくて、メキシコのメ・パ族とか、ブラジルのカリリ族も、レヴィ歩行のパターンを示すんだって。

パワーローのパターンで狩りをしたり食料を探したりする本能は、遠い昔の私たちの祖先が、見知らぬ土地で遭難した時に、餓死したり疲労で倒れたりするのを防ぐのに役立ったのかもしれないよね。もし、土地勘のない場所で食料を見つけなきゃいけない場合、一番効率的なのは、まず近くの場所を探して、どうしても必要な時だけ遠くまで探しに行くっていうパワーローのパターンなんだよね。そうすることで、エネルギーを節約できるんだ。農耕革命とか産業革命によって、こういう本能的な働き方とか行動は薄れていったけど。農業に必要な均一性とか秩序が、自発性とか変動を消してしまったんだよね。そして、工場の流れ作業が、その傾向をさらに強めたんだ。

でも、パワーローのパターンで、集中的に働いたり休んだりする本能は、今も私たちの心の中に残ってるんだよね。記憶を探すのも、ある意味、心の狩りみたいなもので、ハッザ族とかメ・パ族とかカリリ族に見られるのと同じパターンが、脳の中でも起こるんだって。

脳の活動にパワーローが組み込まれてることを示す証拠の一つとして、生まれたばかりの哺乳類に見られる現象があるんだよね。生まれたばかりの脳は、新しい情報を覚えたり、神経細胞のつながりを強化したりするのに、ものすごくエネルギーを使うんだって。だから、睡眠が必要になるんだけど、生まれたばかりのネズミは、生後2週間くらいまで、睡眠と覚醒をランダムに繰り返すんだって。でも、2週間経つと、覚醒時間がパワーローに従うようになるんだって。つまり、短い時間起きていることが多くて、長い時間起きていることが少ないっていうパターンになるんだよね。赤ちゃんを持つ親なら、1時間とか2時間おきに昼寝をする赤ちゃんを想像できると思う。

都会に住んでて、生活がデジタル化されてて、予測可能な大人でも、自由に過ごせる時間があると、パワーローのパターンで動いたり休んだりするみたいなんだよね。活動量計を使った研究によると、私たちは、短い休憩を頻繁に挟んで、長い休憩を挟む頻度を少なくするっていう、パワーローのパターンで休憩するんだって。

もし、パワーローがあらゆる気候とか人とか土地に共通して存在してて、私たちの周りの世界とか心の中を探検する方法を振り付けてて、生まれつきの働き方とか休み方を形作っているとしたら、パワーローは、もっと上手に脳を使うための秘密を握ってるかもしれないよね。

2006年に、ハンガリー、ポルトガル、アメリカの研究者たちが、ダーウィン書簡プロジェクト、ロンドンのフロイト博物館、アインシュタイン論文プロジェクトの記録を調べたんだって。ダーウィン、フロイト、アインシュタインっていう、20世紀を代表する3人の天才が、手紙に返信するパターンがあるかどうかを調べるために。当時、手紙は知識労働の一つの形だったんだよね。多くの科学者は、画期的な理論を生み出すための「研究所」で働いてたんじゃなくて、自宅の机で考えてたんだ。科学的な議論とか、査読みたいなことも、手紙を使って行われてたんだよね。ダーウィンが友人とか同僚に頻繁に手紙を送ることで、進化論っていう理論にたどり着いたんだよね。

もし、ダーウィン、フロイト、アインシュタインが、手紙を受け取るたびに返信していたら、手紙を書くパターンなんて見つからなかったと思う。でも、実際はそうじゃなくて、研究者たちは、ちゃんとパターンを見つけたんだ。手紙を受け取ってから返信するまでの時間は、短いことが多くて、たまに長くなるんだって。まるで工場の流れ作業のように、手紙が一定のスピードで流れてくるわけじゃなくて、ダーウィン、フロイト、アインシュタインは、パワーローのリズムで手紙を書いてたんだよね。

パワーローは、天気とか海の波とか、月のクレーターとか、火山の噴火とか、地震とか雪崩とか、自然環境のあらゆる面に見られるんだよね。それだけでなく、都市とか企業とかインターネットとか言語とか、人間が作り出したものにも、パワーローが組み込まれてるんだ。世界中のパワーローのパターンが、私たちの進化の過程で私たちに影響を与えて、私たちの脳や行動のパターンにも影響を与えた可能性は高いよね。

えーと、次だね、「テクノロジーと時間」。

テクノロジーを使ってプロセスを改善する時、私たちは、一番遅い部分に注目するんだよね。なぜなら、それがプロセスのボトルネックになってるから。遅い部分を早くすることで、全体のプロセスを一定のペースで進めることができるようにするんだ。これは、フォードの自動車工場の流れ作業の考え方と同じだよね。時間の流れは私たちの経験を形作るから、プロセスを観察する人にとって、時間は一定のスピードで過ぎるようになるんだよね。

テクノロジーは時間の座標を変えて、テクノロジー時間っていう新しい時間を作り出すんだ。テクノロジー時間は、直線的で規則的で、テクノロジーのチェーンのペースで決まるんだ。ほとんどの知識労働の現場では、ワークフローがこの超人的な情報伝達のスピードに合わせて調整されるんだよね。オフィス全体がこのペースに合わせようとして、テクノロジー時間は、ズーム会議とかメールとかテキストメッセージを通して、労働者の家にまで入り込んでくるんだ。

テクノロジーがまだ完全に征服していない世界に行くと、この影響の大きさを実感できるよね。数年前に、サルデーニャ島の奥地の山に行って、探検家でナショナルジオグラフィックのフェローのダン・ビュットナーさんに会ったんだ。彼の研究に関するNetflixのシリーズ、『100歳まで生きる:ブルーゾーンの秘密』の撮影をするために。私たちは、セントラルと呼ばれる百寿者の生きる博物館のような場所で撮影をしたんだけど、そこでは約800人の住民のうち29人が100歳を超えてたんだ。

ハードワークは、セントラルでの生活に欠かせないもので、強い牧畜文化が根付いてるんだよね。ヤギ飼いは、百寿者も含めて、夜明けとともに起きて、季節に関係なくヤギを山に連れて行くんだ。太陽が高く昇ったら、手作りの食事を食べるために山から降りてくるんだ。午後は、近所の人とか友達とニュースとか噂話をして、ゆったりと過ごすんだよね。

多くの家にはテレビとかブロードバンドインターネットがなくて、携帯電話の電波も不安定だった。それに、毎日何が起こるかわからないっていう不安定さもあったんだよね。地形は境界線の少ない丘陵地で、ヤギはどこにでも行ってしまうし、いつ何が起こるかわからない。食べ物は自然の恵みで育ち、天気によって一日の過ごし方が決まり、雨が降ったら計画を変更しなければならない。問題解決は、日常生活の一部なんだよね。でも、そんな不安定な生活をしているにもかかわらず、ストレスとか心配そうな様子はほとんど見られなかったんだ。

私がそこに行った時、日常生活が、まるで狩猟採集民の祖先のように、集中的な時間と休息の時間が交互に繰り返されるパワーローのパターンで過ぎていくことに気づいたんだ。精神的にも肉体的にも集中して働く時間があるんだけど、そのあとには必ず昼寝とか、景色をぼんやり眺める時間が続くんだよね。ヤギを追いかけて丘を駆け上がった次の瞬間には、のんびりとヤギの群れを見守ってる、みたいな。テクノロジーがないっていうことは、人間が時間のスピードを決めることができるってことなんだよね。人間が動き回ると、時間が後からついてくる。仕事が終わると、時間のスピードも遅くなるんだよね。

セントラルの人たちは、サルデーニャ島の他の地域とかイタリア全体の人たちよりも、健康指標が高いんだって。精神的な健康も身体的な健康も、高齢になっても良好な状態を保ってるんだ。彼らの働き方とか生活パターンが、彼らの優れた精神的な健康とか長寿に貢献してるのかもしれないよね。

激しい精神労働は、軽い精神労働よりも早く資源を消耗させて、精神的な疲労を生み出すんだ。「パワーロー」型の働き方、つまり、短い時間集中して働いて、休憩を挟んで休息を取るっていう働き方は、慢性的な精神的な負担とか、それによる悪影響から身を守ってくれるんだよね。でも、潮の満ち引きのように働くことが簡単なセントラルの人たちでも、知識労働の環境で優れた成果を上げられるとは限らないんだ。リズムのある精神労働で素晴らしい成果を出すためには、集中的に働く時間を最適化して、常に質の高いものにする必要があるんだ。そのためには、もう一つ必要な要素があるんだよね。

えーと、次が「効率の力」。

2019年に、ケニアの長距離ランナー、エリウド・キプチョゲさんが、2時間以内にマラソンを完走して、人類の歴史を塗り替えたんだ。でも、彼は特別な道具を使ってたから、彼の記録は公式記録にはならなかったんだよね。ジェット推進装置を背負って走ったり、ローラースケートを使ったり、ドーピングをしたり、スマートスニーカーを履いたりしたわけじゃないんだよ。彼の道具は、驚くほどシンプルだったんだ。

レース当日、キプチョゲさんの前を銀色の電気自動車が走って、その車の屋根に取り付けられた装置から、明るい緑色のレーザー光線が地面に照射されたんだ。その光線は、キプチョゲさんのペースメーカーとして、彼の足取りを調整するメトロノームとして機能して、彼を1キロあたり2分50秒っていう一定のペースに保ったんだ。そのペースが、彼の目標を達成するための最も効率的なランニングスピードだったんだよね。ペースが速すぎると疲労のリスクが高まり、ペースが遅すぎると目標を達成できなくなる。キプチョゲさんは、2時間を20秒下回ってゴールして、人間のパフォーマンスが、ペースをうまく管理することで、とてつもない高みに到達できることを証明したんだよね。

ある意味、トラックはキプチョゲさんにとっての情報であり、精神的な効率は、ランニングの効率と同じように、バランス感覚が重要なんだよね。頭をフル回転させて、良いペースで進みたいけど、消耗しすぎると良くない。キプチョゲさんの最適なペースと同じように、精神的なペースにも最適な「スイートスポット」があって、そこで効率が最大になるんだ。

でも、これには矛盾があるんだよね。そもそも、パワーロー型の働き方は、リズムがあって、一定の効率的なペースで働くこととは正反対なんだよね。それに、質と効率は、両立しないわけじゃないけど、必ずしも共存するわけじゃない。あなたは、非常に効率的なプログラマーかもしれないけど、平凡なソフトウェアしか作れないかもしれないし、20年間何も成果が出なかった後に、素晴らしい製品のアイデアにたどり着くかもしれない。リズムのある働き方が優れた成果を生み出し、ペースメーカーが効率を最大化するなら、どちらかを犠牲にすることなく、両方を組み合わせて、ほぼ超効率的な働き方を生み出す方法はないんだろうか?

パワーロー型の働き方とキプチョゲさんのペースメーカーを組み合わせるには、2つのことをする必要があるんだ。まず、ペースメーカーは、あなたがやってる精神的な仕事の種類に合わせて、ペースを調整する必要がある。次に、ペースメーカーは、あなたのペースをパワーローのパターンで変えて、短い時間だけペースを高く保って、残りの時間はペースを低くする必要がある。そうすることで、素晴らしい才能を発揮できる瞬間を保ちつつ、その瞬間をできるだけ効率的にできるんだよね。

えー、次だ。次に、あなたの脳に、まさにこれを実行する巧妙な回路がどのように配線されているかを説明します。

Go Back Print Chapter