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えーっと、今回はチャプター9、いきますね。ギア・ネットワーク、っていうお話です。
“僕の心は、まるでレーシングエンジンのようだ。作られた目的と繋がっていないから、バラバラに引き裂かれているんだ。” って、シャーロック・ホームズのコナン・ドイルが言ってるんですね。へー。
で、このお話は、脳の中にある、ちょっとした脳細胞の集まり、青い点、っていうところから始まります。この青い点、正式には「青斑核(せいはんかく)」って言うんですけど、ノルアドレナリンっていう神経伝達物質がいっぱい詰まってて、それが脳全体に、まるで弾丸みたいに発射されるんです。
このノルアドレナリンの弾丸が、脳の活動パターンを変えるんですね。まるで脳の構成を組み替えるみたいな感じで。早い速度で発射されれば思考は早くなるし、ゆっくりだと遅くなる。つまり、この青斑核が、脳の活動をコントロールしてるってわけです。
ちょっと難しい話になっちゃうけど、この青斑核って、単独で動いてるわけじゃなくて、ドーパミンとかアセチルコリンっていう、他の神経伝達物質のシステムとも密接に関わってるんです。だから、ここでは、青斑核とその影響を、まとめて「青い点ネットワーク」って呼ぶことにします。
で、この青い点ネットワークを、ギアシステムとして考えると、分かりやすいんですよね。脳を、スロー、ミディアム、ファストの3つのモードに切り替えるギア。ギア1がスロー、ギア2がミディアム、ギア3がファスト。みたいな。
ギア1は、暖炉のそばでくつろいでるような状態。休息したり、回復したり、ぼーっと考え事したりするのに最適。ギア2は、快適に効率的に作業できる状態。集中力とか、学習能力とか、問題解決能力とか、分析力とかが、最大限に発揮される感じ。ギア3は、短距離走みたいな状態。一気にエネルギーが湧き上がるけど、長時間は持たない。
最近の研究では、脳がギア3の状態に長時間いると、負担がかかることが分かってきてるみたいです。逆に、ギア1とかギア2の状態は、ギア3によるダメージを軽減する効果があるかもしれない。2021年の研究では、脳の病気になりやすいマウスを使って実験したところ、青斑核をギア2のパターンで活動させたマウスは、病気になりにくかったらしいんですよ。すごいですよね。
つまり、ギア3の状態は、完全に避けるべきってわけじゃなくて、短い時間なら大丈夫。ただし、ギア1とかギア2で十分な時間を過ごすことで、バランスを取ることが大事ってことなんです。
面白いことに、青斑核ネットワーク自体が、そういうパターンを好む傾向があるみたいなんです。生まれたばかりのラットも、2週間くらいで、行動パターンに変化が見られるらしいんですけど、青斑核が、その変化に大きく関わってるらしいんですよ。
つまり、青斑核ネットワークは、脳のペースを、作業に合わせて調整できるし、ペースを変化させる能力も持ってるってことなんです。
表面上は、脳のペースを変えるだけに見えるけど、実はもっと深く、ギアごとに、集中力の精度とか、処理するデータ量とか、脳全体の効率とかが変わってくるんです。
じゃあ、それぞれのギアについて、詳しく見ていきましょう。
まずはギア1。ギア1は、脳を充電したり、休息したり、ぼーっと考え事したりするのに最適。朝起きた時とか、夕暮れ時に公園のベンチに座って、ぼーっとしてる時みたいな感じ。周りの景色とか、ふと浮かんだ考えとかに、軽く注意を向けるけど、すぐに別のことに意識が移っていく。
複雑な情報を処理するのに十分なパワーがない状態なんですね。注意力も、一つのことに集中するには弱すぎる。写真で言うと、パノラマ写真みたいに、全体を見渡せるけど、ぼやけてて、どこかにズームインすることはできない。
だから、ギア1の状態は、あえて注意力を手放して、脳を休ませることが大事なんです。頭の中をリセットして、新しい視点から物事を見れるようになる効果もあるんですね。
外の世界への関心が薄れることで、自分の内側の考えに意識が向きやすくなります。意識的に集中するわけじゃないけど、潜在意識から湧き上がってくるアイデアに、気づきやすくなる。ひらめきが生まれやすい環境になるってことなんです。
次にギア2。ギア2は、集中力とか、学習能力とか、問題解決能力とか、クリエイティビティとかを発揮するのに最適。まるで魔法みたいな力を与えてくれる状態なんです。
なぜかって言うと、脳の前頭前皮質、つまり、おでこの裏側にある部分が、フル稼働してるから。この前頭前皮質は、思考、想像、予測、分析、判断、問題解決、そして集中力、あらゆる知的活動を司る、まさに司令塔なんです。で、この前頭前皮質が、一番力を発揮できるのが、ノルアドレナリンが適度なレベルの時、つまり、ギア2の状態なんです。
カメラのレンズで例えると、注意を向けたい対象に、ピントを合わせて、背景をぼかす感じ。焦点は、外にも内にも向けられるし、狭めたり広げたりすることもできる。
例えば、小説を読む時、レポートを分析する時、アイデアをブレインストーミングする時、それぞれ集中力の使い方が違いますよね。小説を読む時は、リラックスして、言葉に集中したり、想像力を膨らませたり。レポートを分析する時は、集中力を高めて、内容を深く理解しようとする。ブレインストーミングする時は、視野を広げて、いろんなアイデアを出したり、絞り込んだり。
ギア2の中心に近づくほど、集中力は高まって、粘り強くなる。逆に、ギア2の端に近づくほど、集中力は少し弱まって、視野が広がる。ギア1に近づくと、エネルギーが少し弱まって、ギア3に近づくと、少しエネルギーが強まる。
ギア2の状態には、低エネルギーのギア2と、高エネルギーのギア2があります。
低エネルギーのギア2は、ギア1に近い状態。集中力は少し弱まって、注意をそらすことが、より簡単にできます。でも、それが逆に、頭の中をリセットして、新しい視点を得るチャンスになるんです。注意をそらすことで、潜在意識の中に眠ってる、アイデアの断片に偶然出会うことができる。集中してたら見逃してたような、ひらめきが生まれるんですね。この状態は、自発的なクリエイティビティを発揮するのに最適。アイデアを探し求めて、見つけたものを集中力で吟味する。ギア1との違いは、集中力があるってこと。集中と拡散を、簡単に切り替えることができるんです。
高エネルギーのギア2は、ギア3に近い状態。ノルアドレナリンのレベルが、ギア2の中で一番高いので、エネルギーが満ち溢れてる感じ。ノルアドレナリンには、微弱な信号を増幅する効果があるんです。今まで見えなかった細部が見えるようになるから、視野が広がり、新しい視点を得て、アイデアをブレインストーミングしたり、関連性を発見したりする能力が高まる。この状態は、学習にも最適。エネルギーが増えることで、脳細胞が活性化され、新しい繋がりが生まれやすくなる。内発的なモチベーションとか、好奇心とかに突き動かされてる時に、この状態になりやすい。最も生産的で充実した状態と言えるでしょうね。
ギア2の状態は、多くの人にとって、心地よく感じるはずです。なぜかって言うと、自分の能力を最大限に発揮して、世界を理解し、世界と繋がることができる、最適な状態だから。
最後に、ギア3。ギア3は、緊急時とか、時間制限がある状況で、素早く対応するのに最適。青斑核が、ノルアドレナリンを猛烈な勢いで発射して、脳がフル回転してる状態。でも、前頭前皮質の一部がオフラインになってる。つまり、高度な知的作業は苦手になるけど、反射的な行動は得意になる。タイピングのスピードは上がるけど、内容を深く分析することはできない。カメラで例えると、動きが激しすぎて、ぼやけてて、ディテールが見えない状態。
この状態では、自動的にできることとか、練習を重ねて、考えなくてもできることを、ものすごいスピードで実行できる。感情とか分析とかに邪魔されたくない、緊急事態とか、時間との勝負みたいな状況で、力を発揮します。医療スタッフが心肺停止の患者を救命する時とか、アスリートが試合の重要な局面で力を発揮する時とかに、この状態になることが多いみたいです。
AIが発達した現代社会では、このギア3のモードが、非常に重要になってきます。自動化されたシステムのエラーが、世界規模で大きな影響を及ぼす可能性があるからです。迅速な対応が、甚大な被害を防ぐことになるかもしれません。
青斑核の活動が活発になって、ギア3が深まるほど、大量のデータが流れ込んできて、必要な情報とノイズを区別するのが難しくなる。外の世界からの刺激が強すぎて、圧倒されたり、頭の中にいろんな考えが浮かび上がってきて、混乱したりする。ノルアドレナリンが大量に放出されることで、エネルギーが湧き上がって、痛みとか恐怖とかを感じにくくなるけど、判断力は鈍ってしまう。知識労働の現場では、誤解したり、偏見にとらわれたり、早まった結論を出したり、ニュアンスを理解できなかったり、軽率な判断をしてしまったりする可能性が高まる。
脳の感情処理経路は、青斑核ネットワークと直接繋がってる。感情的な刺激を受けると、簡単にギアが上がって、その影響が長引いてしまう。激しい怒りとか悲しみとかを感じると、ギア3の状態に陥って、なかなか抜け出せなくなる。だから、嫌なことがあった日は、なかなか寝付けないってこと、ありますよね。
脳は、まるで海面みたいに、常に変化してる。風とか海流とかによって、波のパターンが変わるように、脳の状態も、常に3つのギアの間を行ったり来たりしてる。集中してる状態(ギア2)でも、時々、頭の中をリセットするために、注意をそらす必要があったり(ギア1)、気が散ってる状態(ギア3)でも、何か重要な情報が入ってくると、集中力を取り戻したり(ギア2)する。だから、ここでは、特定のギアに「いる」って言う時は、基本的には、そのギアの状態が「優勢」って意味で使いますね。
簡単にまとめると、ギア1は休息とリラックス、ギア2は集中と学習、ギア3は緊急時の対応、って感じですね。