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えーっと、今回は、なんだっけ、世界のリズム、みたいな話ですね。人間の体って、すごいよね。ずーっと、なんかリズムを刻んでるっていうか。D.H.ロレンスっていう人が、「人類は宇宙のリズムに戻るべきだ」って言ってるらしいんですけど、わかる気がするな。
たとえば、何もしないって決めて、砂漠の島に一週間いたとしても、体のリズムって勝手に動くんだよね。日の出とともに起きて、お昼までぐんぐん上がって、ちょっと休憩して、また登って、夕方に下がっていく、みたいな。
太陽の動きに合わせて、体の中で少なくとも2つのリズムが生まれるらしいんです。ひとつは24時間周期、もうひとつはその半分の12時間周期。このリズムに合わせて生活すると、まるでサーファーが波に乗るみたいに、自分の体の調子を整えられるんだって。へー。
まず、24時間周期のリズムについて。脳の中にある青い点、これ、ノルアドレナリンっていう神経伝達物質の中枢なんだけど、1976年に、研究者が猿の脳で、ノルアドレナリンのレベルが24時間周期で変化することを発見したんだって。夜は一番低くて、朝にかけて上がっていって、夕方にまた下がる、みたいな。人間でも同じような結果が出てるらしいよ。つまり、青い点のネットワークは、朝に活動が活発になって、夜になるにつれてゆっくりになる、っていう24時間のリズムで動いてるってこと。
で、もうひとつの12時間周期のリズム。こっちは、24時間周期の中に組み込まれてるみたいで、12時間ごとに眠気がくるんだって(真夜中の方が昼より強いけど)。お昼頃に眠くなる、いわゆる「ランチ後の眠気」ってやつですね。あれって、ご飯食べたから眠くなると思いがちだけど、実はご飯を食べなくても起こるらしいんだよね。ほとんどの人は、午後になるとまたシャキッとするんだけどね。
このランチ後の眠気対策としては、お昼寝がいいらしいよ。短いお昼寝でも、その後の2時間の集中力を上げてくれる可能性があるんだって。一番いいのは、お昼過ぎにすぐ寝ること。もしくは、眠気が来る前に、ランチタイムに予防的に寝ておくのも効果があるみたい。昼寝を上手に取り入れると、夕方以降も集中力を維持できるんだね。
ただし、お昼寝は、それまでに溜まった疲労を取り除いてくれるから、注意点もあるらしい。疲労は、夜の睡眠を促す要因のひとつだから、お昼寝から起きてから夜寝るまでに、ちゃんと疲労を溜めないと、夜の睡眠に影響が出ちゃうんだって。面白いことに、昼寝しすぎて夜眠れないときは、寝る前に何かを学ぶと、よく眠れるようになるらしいよ。ただし、興奮しすぎる内容はダメみたいだけどね。
で、このリズムを実際にどう活用するかって話なんだけど、一日のギアの変化って、太陽の動きと似てるんだよね。日の出とともにギア1で目覚めて、太陽が昇るにつれてギア2に入る。お昼には、12時間周期のリズムでランチ後の眠気がきて、一時的にギア1に落ちる。その後、徐々に回復して、夕方になるとギア1に戻る。
この流れから考えると、集中作業に向いてる時間帯と、創造的な作業に向いてる時間帯がわかるんだよね。
集中作業(ギア2)
集中力は、午前中の遅い時間帯にピークを迎えて、午後まで続くらしい。ただ、ランチ後の眠気で一時的に落ちるけどね。だから、集中力を必要とする作業は、だいたい午前9時から10時くらいから午後1時から2時くらいまで、それから午後3時から4時くらいから午後8時から10時くらいまでがいいみたい。もちろん、これは人によって違うし、季節や気候にも左右されるけどね。あと、どれだけ疲れてるかとか、前の晩にちゃんと寝れたか、とかも影響するよね。
銀行の融資担当者を対象にした調査によると、午前11時前が一番融資が通りやすいんだって。午前11時を過ぎると承認率が下がって、午後になるとまた少し上がるみたい。融資を承認するには、ちゃんと返済できるか確認するために、ものすごく集中力が必要だから、集中力が高まる午前中とか午後に承認されやすいのかもね。もし全ての承認が午前中に行われていたら、銀行は一ヶ月で50万ドル以上の追加収入を得ていた可能性があるんだって!すごい!
創造的な作業(低エネルギーのギア2)
集中作業の時間帯の前には、ギア1からギア2に上がっていく時間帯があって、後にはギア2からギア1に下がっていく時間帯がある。この時間帯は、ぼんやりと起きてる状態から、はっきりと目覚めた状態に移行したり、その逆だったりするから、低エネルギーのギア2の状態になるんだって。この状態だと、いろんなアイデアが浮かびやすくなるし、浮かんだアイデアを吟味することもできるから、創造的な思考に向いてるらしい。だいたい、起床から午前9時から10時くらいまでと、午後8時から10時くらいから就寝までの時間帯だね。
朝起きてすぐにカフェインを摂ったりすると、朝の創造的な時間帯が短くなっちゃうらしい。同じように、夕方に激しい運動をしたり、興奮したり、カフェインを摂ったりすると、夕方の創造的な時間帯が短くなっちゃうんだって。
で、寝るためには、ギア1の状態になる必要があるんだけど、ギア2とかギア3にロックされた状態だと、なかなか寝付けないし、睡眠時間も短くなっちゃうから、次の日の集中力とか創造性にも影響が出てくるんだって。夜遅くまで仕事をするのが良くない理由の一つはこれだよね。夜に2時間余分に働いたせいで、次の日にもっと集中して、クリエイティブに4時間働けるはずだった時間を失っちゃうかもしれないんだから。一日を通して激しい感情を抱くことも、ギアが高い設定に固定される原因になるらしい。
仕事中に睡眠不足とか精神的な疲労にどう対処するかっていうのも、寝る時のギアの切り替えに影響してくるんだって。疲れてるのに無理して頑張ろうとすると、脳はギアを上げて、最大限の力を発揮しようとするんだけど、それが「引っかかって」高い設定のままになっちゃうことがあるんだって。これって、日中のギア2の状態を維持するのを邪魔するだけじゃなくて、夜寝る時にギアを下げて眠りにつくのを難しくするんだよね。
それと、個人の時計の話。24時間周期のリズムは、人によって少しずつ違うんだよね。「夜型」の人は、「朝型」の人よりも、数時間遅れて一日を始めたり終えたりする方が調子がいいんだって。
この違いは、朝型の人と夜型の人の体温の変化に現れるらしい。体温は、眠っている時に下がって、起きると上がるんだけど、一番体温が低い時点を、その人の24時間周期の「目印」として使うんだって。ある研究では、朝型の人は午前3時50分に一番体温が低くて、夜型の人は午前6時1分に一番体温が低いことがわかったんだって。
調査によると、だいたい4分の1の人が朝型か夜型らしい。残りの人は、その中間くらいに位置するみたい。朝型か夜型かは、年齢とか状況とかによって変わることもあるし、そもそも、本当に生まれつき決まってるのかどうか、研究者の間でも議論があるみたい。例えば、周りの環境とか、ブルーライトの浴びすぎとか、長時間労働とかが、夜更かしの習慣の原因になってる可能性もあるからね。
ある実験で、朝型の人と夜型の人に、午前8時と午後8時30分に、頭を使う作業をしてもらったところ、朝型の人は午前中に、夜型の人は午後に、より良い成績を収めたんだって。朝型の人は、午前中に作業した方が、午後よりも長く集中力を維持できたらしい。創造性のウィンドウは、夜型の人の方が遅くに、朝型の人の方が早くに訪れるみたい。ランチ後の眠気も、朝型か夜型かによって変わってくるらしいよ。夜型の人が午前10時に起きたら、眠気が午後遅くにずれ込むかもしれないし、朝型の人が朝5時に起きてたら、眠気が午前中に来ちゃうかもしれないんだって。
自分が朝型か夜型かよくわからない場合は、こんな質問を自分にしてみて。
・もし無人島にいて、何もすることがなかったら、何時に起きて、何時に寝たい?
・朝、目覚まし時計なしで起きられる?
・朝起きた時、スッキリしてる?
・朝起きてすぐに運動できる?
・もし難しい2時間の試験を受けるとしたら、何時に受けたい?
・今夜11時に寝られる?
・もし朝3時に飛行機に乗らないといけないとしたら、前の晩に早く寝る?それとも飛行機の中とか着いてから寝る?
・もし一日4時間しか働けないとしたら、いつ働く?
これらの質問は、公式なアンケートで使われてる質問と似てるんだって。もちろん、これは客観的な指標じゃないし、個人のリズムはいろんなことに影響されるから、鵜呑みにしちゃダメだけど、自分の「朝型度」「夜型度」を知るヒントにはなるかもね。
みんなが同じ時間に仕事を始めることを求められる組み立てラインのような世界では、朝型の人も夜型の人も不利になっちゃうよね。もしあなたが極端な朝型人間だったら、午前9時に仕事が始まる頃には、もう集中力のピークが過ぎてるかもしれないし、極端な夜型人間だったら、一日が始まってから数時間は、全く仕事に集中できないかもしれない。夜型の人は、仕事が終わってからも夜遅くまで生産性を維持できることが多いけど、朝型の人は、仕事が終わる前に生産性が低下してしまうことが多いんだって。ある研究者によると、夜型の人は、午前中に眠気を覚ますために、朝型の人よりも多くのカフェインを摂取する傾向があるらしい。そして、朝になると、さらに睡眠不足になって、もっとカフェインが必要になる、っていう悪循環に陥っちゃうんだって。
だから、朝型、夜型、どちらにしても、自分のリズムに合わせて仕事をする方が、仕事に合わせてリズムを無理やり変えようとするよりも、生産性が高まるかもしれないよね。
で、自然のリズムからのサインって話。
自然は常に、時間帯を知らせるための感覚的な情報を提供してくれてるんだって。太陽光の色も、朝から夜にかけて変化するし、世界が目覚めたり眠ったりするにつれて、聞こえてくる音も変わるよね。光と音だけで、ギアを変えることができるかもしれない。
光
一番記憶に残ってる日の出は、カンボジアのシェムリアップにあるバイヨン寺院で見た日の出なんだって。朝4時に寺院の横にあるジャングルに到着して、太陽が寺院の壁にある巨大な顔を照らすのを待ったんだって。最初は真っ暗で、時々ジャングルの中から動物の鳴き声が聞こえるだけ。しばらくすると、どこからか修道士たちの歌が聞こえてきて、それがだんだん大きくなっていくんだって。そして、木の生い茂った地平線の上に、赤い光が現れたんだって。
ジャングルの動物たちの鳴き声は鳥のさえずりに変わり、母鴨が雛を連れて池に向かって歩いて行ったんだって。太陽の光は、だんだん赤みを増して、やがて鮮やかな赤色の光の束になったんだって。そして、歌は最高潮に達して、終わったんだって。寺院はとても美しくて、歌っていた修道士たちもスマホで写真を撮っていたんだって。
日の出は、LEDライトのスイッチみたいに、パッと明るくなるわけじゃなくて、徐々に変化していくんだよね。外で寝て、晴れた空の下で目覚めると、赤い光が目に差し込んでくるのがわかるよね。朝起きてすぐにブルーライトを浴びちゃうと、この赤い光の段階を飛ばしてしまうことになるんだって。太陽が昇るにつれて、赤い光は徐々に明るい白色の光に変わっていく。夕方も同じように、明るい光がすぐに暗くなるわけじゃなくて、徐々に変化していくんだよね。
最近の研究で、光の色が人間の精神状態に影響を与えることがわかってきたらしい。青い光は集中力を高めて、暖かい赤い光は心を落ち着かせるんだって。疲れている時は、青い光を浴びると集中力を維持できるし、創造的な作業をする時は、柔らかくて暖かい光を浴びるといいみたい。朝、赤い光を浴びて目覚めると、脳は徐々に「ウォームアップ」する機会を得て、ギア1で世界をゆっくりと観察してから、ギア2の集中モードに入る準備ができるんだって。
音
音には不思議な力があるよね。目に見えないのに、空間を定義して、特徴を与えることができる。ロンドンのセント・パンクラス駅で、ユーロスターの最終列車を待っている時によくそう感じるんだって。遅い時間になると、駅はガランとしていて、高いアーチが物静かな通勤客の話し声を反響させるだけ。そんな時、どこからともなくメロディーが聞こえてきて、静けさの中に霧のように広がっていくんだって。音を辿っていくと、ユーロスターのプラットフォームのゲートにたどり着いて、そこで誰かが公共のピアノを弾いているんだって。誰のためでもなく、ただ演奏することを楽しんでいるんだね。ピアニストの周りには、小さな人だかりができていて、音楽によって壁のない部屋が作られているんだって。他の場所が眠りについている間も、そこだけはお祝いが続いているみたいなんだって。
音楽、そして音全般は、人の心を様々な状態に導くことによって、現実の認識を形作るんだよね。だから、映画とか演劇で「場面を盛り上げる」ために使われたり、寺院とか修道院で瞑想状態に入るのを助けたりするんだね。ギア2に入るため、ギア2を維持するため、そして一日の終わりにギア2からギア1に切り替えるための便利なツールなんだって。
一般的に、音の周波数、テンポ、振幅(音量)が高いほど、ギアが上がるんだって。テレビやラジオの朝の番組で、パーソナリティが早口で、大声で、甲高い声で話すのは、眠い視聴者をギア1の状態から起こして、注意を引くためなんだって。
逆に、低くて、ゆっくりで、柔らかい音、そして話し方は、ギアを下げるんだって。スパとか歯科医院とかホテルのロビーで、ゆったりとした音楽が流れてるのも、そのためなんだね。急いでいたり、プレッシャーを感じたりして、ギア3に上がりそうになったら、ゆっくりとしたリズムの音楽を聴くと、ギア2に下がることができるんだって。ダーツの選手を対象にした研究では、試合前にリラックスできる音楽を聴くと、成績が向上したんだって。
音が脳に影響を与えるのは、脳波が環境のリズムに同調する「エンrainment」っていう現象と、音が持つ感情的な意味を含めた、脳の解釈によるものらしい。
どんな種類の音楽や音が、集中力や生産性に影響を与えるかは、どんな音楽や音を聴くか、そして今のギアの状態によって違うんだよね。
テンポの速い音楽とか騒音は、ギア1の状態から抜け出すには役立つけど、ギア2の状態だと逆効果になることがあるんだって。例えば、退屈で眠くなってきた時に、騒がしいカフェに移動すると、集中力が高まって、仕事が捗ることがあるよね。でも、すでにギア2の状態だったら、騒がしい場所に移動すると、集中力が途切れて、生産性が低下してしまうんだって。歌詞のある音楽は、集中力を必要とする作業の邪魔になるんだって。歌詞が、作業内容と競合する情報を提供して、注意をそらしてしまうからね。
マウスのクリック音とかキーボードの音とか、周りの雑音で集中できない場合は、ホワイトノイズを聴くと効果があるんだって。ホワイトノイズは、心の状態に両方向の効果があるんだって。周りがうるさくて、気が散る場合は、ホワイトノイズが雑音を打ち消して、集中力を高めてくれる。逆に、周りが静かすぎて、眠くなってしまう場合は、ホワイトノイズが適度な刺激になって、ギア2の状態を維持してくれるんだって。ホワイトノイズは、特にオープンオフィス環境で役立つんだね。
アラーム音とか、人の話し声とか、電話のベルとか、周りの騒音よりも大きい音は、ギアを上げてしまうんだって。騒音の音量が一定のレベルを超えると、精神的なパフォーマンスが低下するんだけど、そのレベルは、騒音の種類とか音の高さによって違うらしい。洗濯機の音くらいの70デシベルから、バイクエンジンの音くらいの95デシベルまで、いろんな研究結果があるみたい。ギアの特性によって、騒音に対する感受性が違うこともあるんだって。もしギアの切り替えがとてもスムーズな人だったら、ギアの切り替えが硬い人にはほとんど気にならないような騒音にも、強く反応してしまうかもしれないね。