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えーっと、皆さん、こんにちは。今回はですね、あのー、健康について、ちょっと面白いお話をしたいなと思ってます。

まず、健康って、単に病気がない状態じゃないんですよね。そうじゃなくて、幸福感がある状態、ウェルビーイングがある状態が、本当の健康だって言えるんじゃないかなって、僕は思うんです。

昔、ギリシャの神話に、アスクレピオスっていうお医者さんの神様がいて、その娘さんが二人いたんですよ。パナケアとヒュギエイアっていうんですけどね。パナケアは、病気を治す薬を作る、治療の女神様。ヒュギエイアは、健康を維持したり、増進したりする、予防の女神様。

でね、アスクレピオスの杖っていう、医学とか公衆衛生のシンボルがあるんですけど、蛇が巻き付いてるんですよ。なんで蛇かって言うと、蛇って脱皮するじゃないですか。古い皮を脱ぎ捨てて、新しい、健康な皮膚になる。だから、蛇は健康を促進したり、維持したりすることの重要性を表してるんだって。へー、って感じですよね。

だから、医学って、そもそも、病気を治すことと、健康を増進すること、この二つの側面から、人間の幸福を目指すものだったんですね。病気を治すのは、病原性のアプローチ。病気の原因を取り除く。健康を増進するのは、健康生成のアプローチ。健康な状態を作る。

ワクチンって、良い例ですよね。あれって、病気を治すんじゃなくて、免疫システムを強くする、健康を増進するアプローチなんです。体の免疫力を利用して、病気を予防する。

で、この健康生成のアプローチって、体の健康だけじゃなくて、心の健康にも当てはまるんですよ。心の病気を治すことだけじゃなくて、ポジティブな感情を持ったり、人生を充実させたりすることに、焦点を当てる。

さらに、「ホール(whole)」っていう考え方もあるんです。「全体」とか「完全」っていう意味なんですけど、これも大事だなって思うんですよ。私たちは、全体として、ちゃんと健康なんだろうかって。

科学者としてね、健康を測るための信頼できる方法が必要だって思うんですよ。で、僕が研究を始めた頃、体の病気とか、心の病気を測る方法はたくさんあったんだけど、心の健康を測る方法が、全然なかったんですよ。だから、自分でメンタルヘルスの連続体質問票ってのを作ったんです。

で、その質問票を使って研究する前に、多くの研究者は、うつ病と幸福感って、すごく関連性が高いと思ってたんですよ。ほとんど同じものだって。だから、もしカウンセラーとか精神科医が、うつ病の症状を軽くする方法を見つけたら、患者さんはすぐに幸福感を取り戻すだろうって期待してたんです。

でも、研究の結果は違ったんですよ。うつ病と幸福感の関連性って、意外と低いんです。だから、うつ病の症状を軽くしても、必ずしも幸福感が増すとは限らない。つまり、心の健康には、心の病気と心の健康っていう、二つの側面があるってことなんです。心の病気が低くて、心の健康も低い人もいれば、心の病気が高くて、心の健康も高い人もいる。いろんな人がいるってこと。

例えば、もし心の病気を治す薬があったとしても、心の病気からは解放されるかもしれないけど、必ずしも幸福になれるとは限らないんです。

あとね、脳の仕組みも、この二つの側面に基づいてるんですよ。悲しい時に活性化する脳の部位と、嬉しい時に活性化する脳の部位は、違うんですって。だから、悲しみの反対は、必ずしも幸福じゃない。

つまり、ネガティブな感情がないからといって、ポジティブな感情があるとは限らないし、ネガティブな感情があるからといって、ポジティブな感情がないとは限らない。心の健康は、白か黒か、って話じゃないんですよね。虹色なんです。

私たちの体の中には、いろんな「悪い」もの、感染症の原因になるものがいっぱいいるんですけど、免疫システムがちゃんと機能してれば、それらは害を与えない。免疫力が強ければ、ちょっとぐらい悪いものが入ってきても、跳ね返せるんです。

コレステロールも、そうですよね。「悪玉」コレステロールと「善玉」コレステロールがある。悪玉コレステロールが低くて、善玉コレステロールが高い状態が、一番健康なんです。

テロメアっていう、染色体の末端にある保護物質も、そうなんです。ストレスが多いと、テロメアが傷つきやすくなって、病気になりやすくなる。でも、テロメラーゼっていう酵素が、テロメアを保護してくれる。ストレスに強く、健康な状態を保つことができる。

双子の研究でも、心の病気になりやすさとか、幸福感を感じやすさって、遺伝的な要素があることがわかってるんです。でも、遺伝だけで決まるわけじゃない。ストレスとか、環境の影響も大きい。

ポジティブな側面、つまり、健康を増進する側面は、脳の神経新生とか、神経可塑性にも関係してるんです。ストレスで脳の神経細胞が壊れても、新しい神経細胞を作ったり、神経細胞同士のつながりを新しくしたりすることができる。だから、心の病気で苦しんでる人も、幸福に向かって、自分の心の健康を高めることができるんです。

修道女の研究っていうのがあって、亡くなった修道女の脳を調べたら、認知症になるはずの脳の状態だったのに、生きてる間は認知症の症状がなかった人がいたんです。その人たちは、人生に積極的に関わって、いろんなことをしてた。それが、脳の神経細胞を活性化して、認知症を防いでたんだって。

あと、脳卒中の患者さんのリハビリでも、良い例があるんです。麻痺した手足を、あえて使うように強制することで、脳の神経細胞が再生して、再び手足が使えるようになる。

つまり、人間の体には、再生したり、回復したり、強くしたりする力があるんです。免疫システムとか、心臓血管系とか、脳とか、細胞とか、いろんなところで、その力が働いている。適度なストレスとか、挑戦を経験することで、強くなれる。

体の修復能力とか成長能力が、ストレスによるダメージを上回れば、健康を維持できるし、さらに健康になれる。逆に、ストレスが大きすぎると、病気になる。病気って、ある日突然なるわけじゃないんですよね。徐々に、ストレスとか不健康な習慣が積み重なって、体の修復能力を超えてしまった時に、病気になる。

で、この強さって、体の強さだけじゃないんですよね。心の健康も、同じように働く。痛みを専門とする心理学者のレイチェル・ゾフネスさんも言ってるように、痛みって、体だけの問題じゃなくて、体と心の両方の問題なんです。ネガティブな感情とか、悲観的な考え方とか、不健康な対処行動は、痛みを増幅させてしまう。

逆に、プラセボ(偽薬)ってありますよね。あれは、良くなるだろうっていう期待感を持つことで、体の治癒力を高める。希望を持つことで、良くなるってこと。

だから、心の健康、幸福感、ポジティブさを高めることで、困難に立ち向かうことができる。心が強ければ、どんな困難にも立ち向かえる。

この心の健康の連続体っていう考え方は、希望を与えてくれるものだと思うんです。心の病気だけじゃなくて、心の健康にも焦点を当てることで、違う道が見えてくる。自分の内側にばかり目を向けるんじゃなくて、周りの世界に目を向ける。どうすれば、より良く生きられるのかを考える。

希望を持つことから、始めましょう。希望は、種をまくこと。もっと良いことが可能だって、信じることから。

20世紀が終わる頃、WHO(世界保健機関)が、「世界の疾病負荷(GBD)研究」っていう、大規模な研究を発表したんです。この研究では、病気によって、どれぐらい障害を抱えて生きる期間が長くなるのかを調べたんです。障害調整生存年(DALY)っていう指標を使ってね。

昔は、病気で命がどれぐらい短くなるのか、つまり、死亡率だけが重要視されてたんです。でも、GBD研究で、障害を抱えて生きる期間も考慮されるようになって、初めてうつ病が、上位にランクインしたんです。

最近の研究では、18歳以上の成人の13.2%が、過去1ヶ月間に抗うつ薬を服用したことがあるって。女性の方が多くて、特に60歳以上の女性の割合が高い。

あと、心の病気を最初に経験する年齢も、どんどん下がってきてる。不安障害は14歳頃、薬物乱用は20歳頃、気分障害(うつ病など)は26歳頃。これは、世界共通の傾向なんです。

これらの数字は、私たちに、心の病気の問題にもっと真剣に取り組むように促してる。

昔は、政府とか政治家は、心の病気は自分たちには関係ないって言ってた。うつ病が、心臓病と同じぐらい深刻だってことを、信じなかった。でも、時間が経つにつれて、一部の国は、心の病気の深刻さを認め始めて、対策にお金をかけるようになった。

でも、そのお金は、治療に使われたんです。薬物療法とか、カウンセリングとか。でも、治療が本当に効果的なのか、疑問に思う人もいる。

イギリスの報告書では、「うつ病や不安障害は、治療で半分以上の人が治る」って言ってる。でも、科学的な根拠はない。どんな心の病気の治療も、「治癒」とは言えない。

アメリカの国立精神衛生研究所の所長だったトーマス・インセル博士は、「心の病気の治療は、症状を緩和するだけで、根本的な解決にはならない」って言ってる。彼は、「心の病気も、他の病気と同じように、完全に治癒することを目指すべきだ」って言ったんです。

心の病気の薬って、多くの場合、別の病気を治療するために作られた薬の、副作用から発見されたものなんです。例えば、抗うつ薬の元になった薬は、結核の薬の副作用で、気分が良くなる効果があったから、うつ病の治療に使われるようになった。

だから、心の病気の原因を理解する前に、治療法が先に発見されたっていう、順番が逆なんです。

テレビのCMとかで、「心の病気は、脳の化学物質のバランスが崩れてるから起こる」って言ってるけど、科学的な根拠はないんです。

もちろん、抗うつ薬を飲むと、脳の化学物質のレベルが変わるけど、それは、薬を飲む前からバランスが崩れてたってことじゃない。

心の病気の治療薬は、症状を緩和するだけで、根本的な解決にはならない。心の病気の原因は、まだよくわかってない。

うつ病とか、多くの心の病気は、慢性疾患のようなもの。症状が良くなったり、悪くなったりを繰り返す。

初めてうつ病になった人が、再びうつ病になる確率は50%。2回うつ病になった人が、3回目になる確率は70%。3回うつ病になった人が、4回目になる確率は90%。

だから、心の病気が深刻な問題だってことを認めるだけじゃなくて、苦しんでる人を、どうすれば楽にできるのかを考える必要がある。

ここで、心の健康の連続体っていう考え方が役立つ。うつ病よりも、むしろ「低迷」してる状態、つまり、元気がない状態の方が、もっと深刻な問題かもしれない。

うつ病を治すのは難しいけど、低迷してる状態から、幸福な状態に近づけることはできる。幸福な状態は、うつ病を予防することにもつながる。

医療システムは、薬とか手術で、病気を治してくれるって期待させて、普段から健康に気を遣うことを、軽視させてる。でも、健康を軽視することは、多くの人にとって、大きな負担になる。

アメリカの医療システムは、病気を治すことよりも、健康を維持することにもっと焦点を当てるべきだ。

世界の他の国は、どうしてるんだろう?心の病気を薬で治すだけじゃダメだって、気づいてるんだろうか?残念ながら、そうではない。でも、世界中の賢い人たちが、この問題について真剣に考えてることは、確かだ。

WHO(世界保健機関)とか、国連も、心の健康を左右する社会的な要因にもっと注意を払うように、呼びかけてる。ピアサポートグループとか、心理療法とか、いろんな種類の治療法も増えてきてる。学校とか、大学とか、職場でも、心の健康をサポートするプログラムに、もっとお金をかけるようになってきてる。良い傾向だ。でも、もっと必要だ。

心の健康とか、うつ病とか、精神科カウンセリングとか、いろんな言葉を使ってるけど、問題の本質を見てない。楽観的に考えたり、脳の化学物質のバランスを整えたりするだけじゃ、心の健康は得られない。もっと違う方法が必要だ。

私たちの生活の多くは、意識せずに、自分の体のこととか、自分のことを理解せずに過ごしてる。でも、考え方を変えることで、体の状態とか、神経の状態を大きく変えることができるっていう研究がたくさんある。

例えば、数学のテストを受ける前に、「あなたは数学が得意だ」って言われた学生は、テストの点数が良くなる。掃除の人に、「あなたの仕事は、良い運動になる」って伝えると、体重が減ったり、健康状態が改善したりする。仏教の考え方にも、「心は、集中することで、脳と体を癒すことができる」っていうのがある。

心の病気を医療化することは、多くの人から希望を奪ってしまう。「私はうつ病だ」「私はうつ病患者だ」って。でも、あなたは、それだけじゃない。心の病気を持ってる人でも、心の健康を得ることはできる。幸福になることさえできる。

私たちは、心の病気か、そうじゃないかの、二次元的な存在じゃない。心の健康の連続体っていう、もう一つの側面がある。この二つの側面を知ることで、自分の人生をより豊かに語ることができ、心の健康を促進するための新しいアプローチが見つかる。

じゃあ、幸福な人は、毎日何を優先してるんだろう?

ある日、知り合いからメールが来て、僕の研究に関連する論文をレビューしてほしいって頼まれたんです。「幸福な人の火曜日」っていうタイトルに惹かれて、読んでみたんです。

その論文では、参加者は毎週火曜日に、前の日の月曜日を振り返って、その日に起こった重要な出来事とか、瞬間を思い出して、詳細に語るんです。そして、その出来事とか瞬間に、新しいことを学んだり、誰かを助けたり、誰かと交流したりしたかどうか、どの程度したかを答える。精神性については、祈ったり、瞑想したりしたかどうか。遊びについては、ゲームをしたり、スポーツをしたり、趣味を楽しんだりしたかどうかを答える。

そして、遊んだり、精神的な活動をしたり、他人と交流したり、学んだり成長したり、他人を助けたりした時に、どんな気持ちになったかを答える。これらの活動をたくさんした人は、良い一日だったと感じる傾向がある。喜びとか、興奮とか、希望とか、人生への興味を感じる。これらの活動をほとんどしなかった人は、悪い一日だったと感じる。これは、うつ病の人でも、低迷してる人でも、幸福な人でも、同じ。これらの活動を続けることで、幸福に近づくことができる。

幸福な状態は、私たちを毎日のストレスから守ってくれる。幸福度が高い人は、悪い出来事が起こっても、それが深刻な落ち込みにつながるのを防ぐことができる。

幸福な状態は、山登りのベースキャンプのようなもの。悪天候に見舞われても、ベースキャンプに戻って、体勢を立て直すことができる。

人が幸福を追求する方法には、二つの道がある。一つは、外的な道。仕事とか、キャリアで成功して、お金を稼ぐ。自分のスキルとか実績をアピールして、経済的な価値を高める。

外的な道では、自分の価値を数える。点数とか勝利数とか、給料とか、持ち物を数える。お金とか地位を手に入れることで、幸福になれるって信じてる。

もう一つは、内的な道。内的な道で重要なのは、どんな人間であるか、どんな人間になろうとしてるか。外的な道が経済的な価値を重視するのに対して、内的な道は倫理的な価値を重視する。外的な道が成功とか勝利を重視するのに対して、内的な道は本質とか分かち合いを重視する。内的な道では、自分がどれだけ多くのものを手に入れたかではなくて、どれだけ良い人間になったかで、幸福を得る。

良い人間になること、他人にとって良い人間になることが、幸福の基礎になる。

幸福な人は、毎日、五つのシンプルな活動を取り入れてる。

1. 生涯学習者として、知的好奇心を満たす。
2. 良好な人間関係を築く。
3. 自分自身と他人を無条件に受け入れる。
4. 自分の家族とか地域社会とか世界で、満たされていないニーズを満たすことによって、人生の目的を見つける。
5. 自由な遊びを楽しむ。

これらの活動は、「幸福の五つのビタミン」って呼ばれてる。これらの活動を、毎日の生活に取り入れることで、外的な道と内的な道のバランスを取ることができる。

例えば、新しいことを学ぶ(ビタミン1)ことで、自分の知識をアピールしたり、優越感を感じたりすることもできるけど、謙虚で正直で、完璧じゃない自分を受け入れることもできる。

他人と交流する(ビタミン2)ことで、クールに見せたり、SNSに投稿したりすることもできるけど、深く意味のあるつながりを築いて、思いやりと優しさを示すこともできる。

精神的な活動をする(ビタミン3)ことで、天国に行ったり、地獄を避けたり、ビジネスチャンスを広げたり、履歴書に書いたりすることもできるけど、より良い人間になるために、精神的な活動に没頭することもできる。

他人を助ける(ビタミン4)ことで、自己犠牲的に見せたり、履歴書を良くしたりすることもできるけど、他人の幸福のために、自分の人生の目的を見つけることもできる。

遊ぶ(ビタミン5)ことで、勝つこととか、記録を残すことを重視することもできるけど、遊ぶこと自体を楽しむこともできる。

大切なのは、自分の意図を明確にすること。自分の行動の純粋さを高めること。人生は、意図と行動で決まる。

もっと、今この瞬間を大切に生きること。自分の人生に何かを付け加えるよりも、むしろ、何かを差し引く必要があるかもしれない。そうすれば、自分の進むべき道が、もっとはっきり見えるようになるかもしれない。

幸福は、あなたの北極星。低迷してる状態から抜け出すための道標。幸福の五つのビタミンは、毎日実践できる五つの活動。意図を持って、ビタミンを摂取することで、想像以上の美しいものが見つかるかもしれない。内的な道を進んでみてください。

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